雪の酸性化(pH5.6以下)は、降雨と周様に降雪時と、その積雪いわゆる根雪の期間(12月中旬〜3月上旬)に大気中から酸性化原因物質を取り込み進行します。また、この積雪は、春先の比較的短い期間に、多量の雪融け水となって森林などを経て河川や湖沼を増水させます。したがって、雪融け直前の積雪の酸性度によっては、春に芽ぶく草木や春先に湖水で産みつけられた卵や抵抗力の弱い水中生物など、生態系への影響が懸念されます。
 当研究所では、昭和57年から酸性雨、60年から酸性雪の道内における実態調査を行っています。
 この酸性雪調査のきっかけは、59年夏に発足した酸性雨プロジェクトチームの収集資料中の一報告文(1979)でした。ノルウェーを流れるドブダル川の酸性度を計測すると、月平均は5.2程度なのに、春には4.6になっていました。当時、酸性雪に係る報告文は、このノルウェー南部の調査だけで、わが国での調査は皆無でした。
 さて道内11市町で調査(61年)した雪融け前の積雪のpH測定結果は図に示すとおりです。
 雪融け前までの積雪中には、1)化石燃料の燃焼により生成された硫酸や硝酸の酸性化原因物質、2)スパイクタイヤ装着走行や石灰岩を原料とする工場からのカルシウム系粉じんと畜舎、食品工場からのアンモニアなどの酸性化抑制物質、3)海から風により送られた海塩物質など、が取り込まれています。陰イオンは硫酸根(SO42-)、硝酸根(NO3-)、塩素の3種類、陽イオンはカルシウム(Ca3+)、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、アンモニア(NH4+)、水素(H+)の6種類で、これらのイオンによりバランスが保たれています。またこれらのうち、積雪の酸性化、抑制に関与しない海塩由来物質を除き整理すると、酸性度は次式で示されます。
  [H+]=[海塩以外のSO42-+NO3-]−[海塩以外のCa2++NH4+]
      なお、pH=-log[H+]
 式の右辺一項は酸性化原因物質、二項は抑制物質の濃度といえます。したがって、H+(またはpH)は一項と二項の差となります。
 酸性雪の地域特性を評価するとき、酸性度の高い地域はもちろんですが、たとえ低くても上式の一項が高値の地域は、カルシウム系粉じんが減少すると、酸性度が急増する可能性もあり、留意すべきと考えられます。たとえば、62年に採取したpH7.0、6.4、6.0と高値の3試料について、海塩由来以外のCa2+=0と仮定し分析結果を上式に代入し推算すると、pHはそれぞれ4.3、4.6、4.3となります。
 北海道では、はっきりした酸性雪(雨)の被害例は今のところ報告されていません。しかし、酸性雪(雨)の生態系への影響は、北米やヨーロッパの実例から被害が明白になった時点では手遅れです。したがって、酸性雪(雨)問題は現状把握の調査などにより、影響の潜在化などを事前に予測し、対応する必要があります。
(特別研究員 荒木邦夫)

【沿 革】
 昭和45年4月、道立衛生研究所の施設の一部を借りて発足した当研究所も、多くの公書に関する調査研究や大気質、水質の監視測定、自治体担当職員への技術指導を行い、企画部、生活環境部の出先機関として18年を経過しました。
 本年4月からは、先ごろ行われた行政機構改革により誕生した保健環境部の出先機関として新たなスタートを切りました。
 現在の組織は、総務部大気部水質部の3部からなり、所長以下39名の職員で種々の環境問題に鋭意取り組んでいます。

【総務部】
 総務部は庶務課(6名)と企画課(2名)からなっていますが、そのうち企画課の主な業務として、1)調査研究の企画並びに総合調整、2)環境に関する図書、資料等の収集、管理及び提供のために開設された環境情報資料室の運営、3)電算機による環境情報の解析、などがあげられます。

【大気部】
 本道における一般環境大気中の一酸化硫黄、窒素酸化物等の「ガス状物質濃度」は、近年の産業活動の停滞に伴う燃料消費量の横ばいや省資源・省エネルギーの進展等を反映して低減の傾向にあります。しかし、その反面、特に都市地域においては暖房等に起因するばいじん、スパイクタイヤ装着によるアスファルト粉じん等を主因とする「浮遊粒子状物質濃度」の上昇が認められその低減対策が当面の課題となっています。また、先端産業の導入に伴い発生する「有害物質」あるいは多種多様な化学製品の焼却に伴う「未規制物質」などによる環境汚染の問題も今後更に大きな課題となることが予想され、その実態把握も急務とされています。
 「騒音・振動」及び「悪臭」については、道内における苦情件数の約2/3を占めていますが、これらは事業活動や社合生活の様々な場合において発生しているため、ケースバイケースの防止指導が強く要求されています。
 これらの課題に対処するため、当部では現在部長以下12名のスタッフで種々の調査研究を積極的に進めています。部内は大気一科(一般環境・悪臭)二科(発生源)三科(騒音・振動)で事業並びに調査研究を分担していますが業務内容によっては部全体で対応することもしばしばあります。
 主な事業は、「ばい煙発生施設の立入検査(71施設)、「大気汚染観測局の維持管理」、「アスベスト汚染状況実態調査」、「酸性雨実態調査」、「悪臭発生源実態調査」、「航空機・自動車交通騒音対策調査」、「鉄道振動に関する実態調査」などであり、調査研究の主なものとしては「浮遊粒子状物質に関する調査研究」、「化石燃料からの微量重金属に関する調査研究」、「悪臭に関する調査研究」、「航空機騒音予測手法の調査研究」などがあります。また、市町村、保健所担当職員を対象とした技術研修として「悪臭測定技術検討会」、「騒音・振動測定技術会」、「ばい煙測定技術研修会」等が開催されています。
 63年度の新規としては「化学物質実態調査」、「交通騒音予測モデルに関する調査研究」、「防音診断システムの開発(共同研究)」、「公衆トイレの性能に関する研究(共同研究)」かどが予定されており、よりよい快適環境の創造に部員一丸となって取り組んでいます。

【水質部】
 近年、快適な水環境を保全するうえで解決しかければならない多くの課題、例えば、生活排水による都市内中小河川の汚濁、湖沼等の閉鎖性水域の富栄養化現象、末規制の有害化学物質による地下水汚染等が、クローズアップされております。
 水質部は、これらの課題に対処すべく発足以来数回の機構改革を経て現在、部長・主任研究員以下三つの科からなり、専門分野がそれぞれ異なる総勢15名の研究職員によって構成されております。専門分野は工学、物理、化学、薬学、生物、地質、農学、水産、獣医学と多岐にわたっており、水環境問題が多様化しても充分に対応できることが、当部の特徴となっております。また研究職員の大半が発足当時に採用されており、他の試験研究機関と比較してオジさん族が多く、若い研究職員の採用が、強く望まれています。
 各科で仕事を次のように分担しています。
 第1科は、河川・海域の監視調査を主として、鉱山やクロム汚染調査および環境墓準未達成原因解明調査等を行っております。またこれらの調査に関連して有機物の河川流出特性や沿岸海域中の栄養塩の挙動などの調査・研究を行っております。
 第2科は、特定事業場の立入検査及び排水処理に関する技術指導を行っております。また、生活雑排水対策調査やトリクロロエチレン等による地下水汚染調査等を行っており、これらの調査に関連して、トリハロメタン生成要因物質や微量有機化合物の処理についての調査・研究を行っております。
 第3科は、湖沼の監視調査を主として、湖沼環岸保全調査や化学物質の生物モニタリング調査等を行っております。これらの調査に関連して、湖沼における燐等汚濁要因物質の挙動についての調査・研究を行っております。
 そのほか水質部では、地域の方々と直接的に意見を交換しあえる「せせらぎスクール」や分析技術に関する各種研修を行っております。
 また大気部と共に酸性雪のプロジェクト研究に積極的に取り組んでおり、他の試験研究機関との共同研究として、環境中に存在する変異原性物質の動態に関する研究(衛生研究所)等を行っています。
 近年、環境問題において、グローバルな規模で酸性雨(雪)や化学物質の挙動を知る事などを始めとして、特定地域で生じている問題の解決まで、社会的ニーズが、多様化してきています。
 水質部は、これらのニーズに的確かつ迅速に対処しうるよう努力しております。


紋別市(環境衛生係)の巻
 まずオホーツク海の流氷見物砕氷船「ガリンコ号」で知られる紋別市を御紹介しましょう。紋別市には、中小の水産加工場が約60(日排水量50m3以上は11工場)もあり、また、かっては、製紙工場や東洋一の産金量を誇った鴻之舞鉱山などがありました。
 市の環境行政は、昭和46年に総務部企画課に公害係が設置されて以来、数度の機構改革を経て、昭和61年から現在の民生部、保健衛生課、環境衛生係が担当しております。現在は、温厚な磯田定男課長のもとに新鋭な鈴木廣係長以下4名で衛生の業務と共に、公害関連調査測定(水質、騒音など)や合同パトロールむどの公害業務をこなしております。
 公害研と紋別市さんとのお付き合いは、当初の四田修次さんから今日の鈴木廣さんまで十数年に及び、鴻之舞鉱山や水産加工場の立入検査など、水質や悪臭の調査を通して、多大なる御協力をいただいております。
 これからも、公害研は、分析技術に関する情報提供等を通して、紋別市さんとの係わりを深めて行きたいと考えています。

■アスベスト■
 「アスベスト」は天然の無機繊維状鉱物の総称で「石綿」とも呼ばれています。
 鉱物学上で見るとその大部分は蛇紋岩系のクリソタイルで、化学組成はMg6Si4O10(OH)8であり非常に細い(200〜300Å)パイプ状構造をもっています。
 主な生産地はソ連、カナダ、南アフリカ共和国で、この3カ国で全世界生産量の80%近くを占めています。日本でも富良野で採掘されたことがありますが、現在はほとんど輸入に頼っています。
 「アスベスト」は耐熱、耐薬品性に優れ、また綿糸のように織ることができるなどの特色を有しているため、「防火服」、「ブレーキライニング」、「不燃性建材」等各方面で利用されています。しかし、「アスベスト」による健康障害も早くから注目され、じん肺の一種である「アスベスト肺」は1900年代の初め、肺癌との関連も第2次大戦後知られるようになり、最近では学校での「アスベスト」使用による児童への影響など、一般環境中の「アスベスト」にも関心が払われてきています。
 「アスベスト」を取り扱う職場においては、作業環境濃度を空気1ml中2本以下にすることなど各種の規制が実施されるようになってきました。また一般環境における「アスベスト」による発癌の危険性の程度を定量的に評価することは非常に困難ですが、暴露される量が少ないほど発癌の危険度は小さく、未然防止の立場からも十分な対策を行う必要があります。
 当所でも昭和60年より環境大気中の「アスベスト」のモニタリングを行ってきましたが、今年度からは道民の皆さんが快適で安全な生活が送れるよう、より広範囲な調査を行うことにしています。
(加藤)

■水 銀■
 水銀(元素記号はHg)は、英語でmercuryというが、語源は商業の神にちなんだものであり、ギリシャ語のhydor(水)とargros(銀)の略語である。なお、水星もMercuryである。
 水銀は常温で唯一の液体金属であり、融点-39℃、沸点357℃、密度13.5g/cm3である。
 周期律表を見ると、亜鉛、カドミウム、水銀が縦に並んで一つのグループになっている。このことは、原子核の周りの電子の状態に共通性があり、したがって、化学的性質も類似するわけである。蛇足になるが、水銀と亜鉛(融点419℃、沸点907℃)、カドミウム(融点321℃、沸点767℃)はいずれも融点、沸点の低い銀白色の金属であり人の健康に大いに関係している。
 水銀の用途は、温度計、合金、電池、水銀灯など実に多種多様であり、我々の生活に欠かせないものである。
 水銀は猛毒であるとされているが、いわゆる無機水銀は人間が摂取しても、髪の毛や爪などから比較的体外に排出され易いとされている。しかし、無機水銀が無害であるというわけではなく、体内に蓄積すれば恐ろしい中毒になる可能性がある。
 昔、大仏建立の際に、仏に金アマルガムを塗り付けてから、温度を上げて水銀を蒸発させ金を残すというメッキ的手法が用いられた。建立以後、奇病が流行し、また関係者の寿命は短かったと伝えられている。
 一方、有機水銀(メチル水銀)は生物の脂質溶け易く、体内に蓄積する。水俣病はこの有機水銀中毒である。
 しかし、水銀中毒には不明な点も多く、たとえば、多量の水銀を体内に蓄積しながら、格別の病状を示さない人々もいるそうである。水質汚濁に係る環境基準では、水銀0.0005mg/l以下と定められている。なお、有機水銀に関しては不検出となっている。
(荒木)

【釧路湿原】
 昭和46年にイランのラムサールで「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」いわゆる「ラムサール条約」が、採択されました。この条約の国内登録の第1号に指定(昭和55年)されたのが、釧路湿原です。「釧路湿原」の名称は、故田中瑞穂北海道教育大学教授の提唱(昭和33年)によるものですが、関係各位の努力で、昭和62年7月31日に日本で28番目の国立公園として指定されました。この公園の広さは、26,861haあり、これは甲子園球場が6,783も入る広さです。この公園に生息する植物は、「カプスゲ群落」(いれゆるヤチボウズ)を始めとしてイソツツジなど約700種をこえます。また動物も、特別天然記念物のタンチョウを始めとしてキタサンショウウオやイトウ等多くが生息しています。
(藤田)

◎今春の異動で、次の方々が仲間となりました。
  佐藤昭八さん(総務部長)
  中島克文さん(水質部長)
  中里幸子さん(総務部庶務課)
  福山龍次さん(水質部)
◎水質部では、6月に支庁の公害担当者を対象としたマニュアル「How to 採水を伴う立入検査(採水編)」を作成し配布しました。さらに現在、公害担当技術者を対象とした分析マニュアルを作成中であり、7月頃には完成予定です。

発刊にあたって

 新緑の美しい季節に「えころぶ北海道」をお届けいたします。私どもは、環境間題にたずさわるみなさまに当研究所の業務、調査研究の内容や環境間題に関する新しい情報を提供し、業務のお役に立ちたいと思っております。環境問題が、複雑になればなるほど英知を仕事に生かすことが、ますます大初になるのではないでしょうか。このような趣旨のもとに発刊していきたいと思います。
 本誌の編集方針について申しあげますと、その第一は、「環境問題に関する情報を通して1)仕事のヒント 2)取り組み方 3)知識を紹介する」こと。第二は、「北海道はもとより、地球上の環境問題を編集グランドにする」こと。第三は、「写真、図表を用いビジュアルでカラフルな誌面づくりを心がける」こと。そして第四は、「愛される編集をモットーとし、読みやすさを工夫する」ということであります。
 「えころぶ北海道」は、読まれ、役立たなければ意味がありません。努めて「活かせる話題」「楽しい語題」を提供して、みなさまのお役に立ちたいと思っております。みなさまのお仕事の紹介や本誌についての感想をお待ちしております。
(北海道公害防止研究所長 谷□ 二朗)