北海道環境科学研究センター自然環境部

道南地区野生生物室


道南地区野生生物室とは?

渡島半島における人とヒグマの軋轢を解消するシステムの構築を目的として,平成10年度より「渡島半島ヒグマ対策事業」が始まりました。この事業は,ヒグマ保護管理計画の策定,渡島半島ヒグマ対策協議会の設置,地元フォーラムの開催およびモニタリング調査の実施という4項目を柱としています。このうち,モニタリング調査を実施する現地の拠点として,平成10年4月1日に当野生生物室が設置され,調査の中心としての役割を担うことになりました。



主な事業内容

電波追跡法(テレメトリー法)によるモニタリング

 渡島半島地域に生息するヒグマの生息状況を調査するために、道南地区野生生物室ではヒグマに電波発信機を装着する事によってテレメトリー調査を行っています。以下にその概要を説明しました。
 最初に、ワナを山林に設置します。ワナは、ドラム缶3つを連結してできていて、それぞれバラバラにして運ぶことができます。地形が険しい渡島半島地域では、それぞれの部分を背負って運ぶ場合がほとんどです。
 ワナにヒグマがかかったことが確認されると、すぐに放獣作業が行われます。作業はまず、麻酔をかけることから始まり、麻酔がかかったことが確認されると、体重をはじめ体長、足の幅などを計測します。
 遺伝学的調査に用いる血液などの試料を採取します。また、麻酔がかかっている間は体温や心拍数を測定し、ヒグマの状態を監視しています。
 電波発信機を装着し、耳標(イヤータッグ)で標識した後に放獣します。

被害状況調査

1.はじめに

 渡島半島地域は、半島という地形的な特徴などからヒグマの生息域と人間の活動域が近接し、ヒグマと人間の間に軋轢が生じる頻度が他の地域に比べて高い水準にあります。この軋轢の状況を明らかにするため、道南地区野生生物室では、平成10年に渡島半島地域で起こったヒグマによる被害あるいは出没の現場に赴き、その原因の解析や対策についての検討を行いました。

2.調査地域と調査方法

 渡島半島地域(渡島、檜山両支庁および後志支庁の一部地域)を対象に、ヒグマによる農業被害あるいはヒグマの出没の発生時に現地に赴きました。現場では、町役場担当者あるいは被害にあった農家等に聞き取り調査を行うと共に、被害状況、周囲の環境について調査を行いました。

3.結果

 被害の形態は農作物被害、家畜の被害、出没によるクマへの恐怖心などの精神的被害と多様でした。農作物被害については、檜山管内では水田(水稲)、畑(スイートコーン、デントコーン、メロンなど)および果樹園(サクランボなど)の占める割合が多く(図1A)、渡島管内では畑(スイートコーン、デントコーンなど)、水田(水稲)の占める割合が多い傾向が見られます(図1B)。当然のことながら、このような被害形態の差は地形と土地利用形態の違いが理由と思われ、町村ごとに見ても同様の相違がみられます。家畜の被害は、ヒツジ、ウマ、ウシに加えて養蜂の蜂箱にも見られました。人家裏などへの出没による目に見えない被害は、被害額としては現れないものの、発生する頻度は農作物などのそれと同等です(図2)。人の生活圏とクマの生息地が重なり合う渡島半島地域では人家裏や国道・道道沿いに出没するケースが多く、直接人身被害に結びつく恐れもありその評価と防除が急務となっています。








デントコーンの被害 折倒されたサクランボの木
メロンの被害 稲の被害
壊された蜂箱 捕獲オリの中のヒグマ

4.被害の起きる原因とその防除

 これら被害の起こる原因としては、主に人間の生活活動に伴うものが誘因源となっていることが多いと考えられます。被害の防除法としては、このような誘因源をクマから隔離あるいは除去することとクマを排除することの両方が考えられますが、これまで行われてきたのは後者の有害獣駆除という方法でした。ここ数年における駆除率(ここではワナによる駆除申請に対して駆除できた個体の割合)は、多い年でも50%を割っており(図3)この方法が被害の防除に対して万能ではないことを示しています。さらに、草木の葉が茂った夏から秋にかけては、銃器による駆除はさらに困難な状況です。このような背景から、以下に誘因源をクマから隔離するいくつかの方法、あるいは非致死的なクマの排除法について示しました。

1)電気牧柵の利用

 被害地のうち、小面積の畑、水田、牧場あるいは果樹園、蜂場は多くの割合を占めており、これらについては電気牧柵の応用が可能であると思われます。

2)廃棄物やゴミの適正な管理

 農業および漁業廃棄物に関しては、適正な処理を施し誘因源を減らす努力が必要と考えられます。また、キャンプ場の生ゴミやハイカーが残すゴミ、駐車帯などに投棄されているゴミに対しては、ゴミ箱の工夫や撤去、啓蒙活動が必要です。

3)追い払いなどによる学習効果

 人家裏、道路沿いなどに出没するクマに対しては、ゴム弾や花火弾などによる追い払いが有効であると考えられます。この方法は、経験の少ない若い個体に対する学習効果を期待するもので、若齢個体に対してはある程度の効果があると思われます。

 もちろん、重大な被害を及ぼしたり人身被害をおこす可能性の大きい個体に対しては、ここに挙げた方法よりも従来の有害駆除で対応することも必要であると考えられます。ここで重要なのは、これらの方法を積極的に試験し応用することで選択肢を増やし、それぞれの場面で最も効率がよいと思われるものを適用して全体的な被害防除を推進することでしょう。


 スタッフ