北海道には、どのような海岸がみられますか?
 
 北海道の海岸線約3000kmには、砂浜から断崖まで多種多様な海岸があります。このうち砂浜海岸は全体の約4分の1を占めます。一方、消波護岸や直立護岸などの人工海岸は、全体の3分の1を占めます。砂浜や礫浜などの自然海岸は、近年の海岸侵食や護岸工事により減少する傾向が続いており、防護・環境・利用の調和のとれた海岸保全対策が課題となっています。


北海道の海岸の種別内訳

●海岸線の分類とその変化
 海岸の地形は、陸域の隆起・沈降、浅海部の海底の傾斜角度や岩質、堆積物の特性、土砂の供給量、潮流や打ち寄せる波の力などの違いによって多様に変化します。
 北海道の海岸線を空中写真等で測定すると、港内などの遮蔽域や離岸堤を除いた海岸線の合計は3,385kmとなりました。道内の海岸は、左上の図のような構成比率となります。自然海岸の砂浜は全体の4分の1を占める一方、消化護岸や直立護岸などの人工護岸は、3分の1を占めました。近年、左下の図のように、自然海岸が減少し、人工海岸が次第に増加していることが明らかとなっています。  


北海道の海岸線の変化


北海道内の砂浜,磯浜,
消波護岸の分布

●砂浜海岸やその他の自然海岸の分布
 砂浜海岸は浅海部の傾斜が緩やかなため、波が比較的穏やかです。しかし海岸は植物の生育環境としては厳しく、飛砂や活発な砂の移動、海からの塩分供給、低い保水性などのために、独特な海浜植物群落がみられます。
 左図の紺色の部分に示されるように、細かい砂粒の砂浜海岸は、石狩湾、噴火湾、宗谷湾、網走湾などの湾の奥まった部分(湾頭)に形成されています。また、渡島の砂崎や根室の野付崎など、沿岸流によって大量の土砂が供給されてできた岬もあります。
 近年は、多くの砂浜海岸で侵食が進行しています。その原因として、河川から砂の供給量が減少したことや、岸に沿った砂の移動が沿岸の構造物により断たれたことなどが考えられています。
 海岸の岬付近には波が強く打ち寄せるため、岬の多くは海蝕崖や波蝕台など、人の接近が困難な海岸となっています。知床や天売島などの海蝕崖には水鳥のコロニーが形成されており、積丹・宗谷・えりも・オホーツク沿岸の波蝕台には、海棲哺乳類が上陸する場所があります。礫浜の形成される海岸は、近くに藻場が形成されているところが多く、北海道では昆布採取等の漁業活動によく利用されています。  
 
  海岸にはどのような地形がみられますか?
 
 砂浜が形成される海岸には、砂嘴や砂州、トンボロなどがあります。砂浜海岸には海から陸にかけて様々な微地形が形成され、波浪や風などの環境変化に応じてその位置や形を変化させています。  


砂浜海岸に見られる海岸地形

●砂浜海岸地形
 自然海岸は大きく岩石海岸と砂浜海岸に分類されます。岩石海岸は海蝕崖や波蝕台のような固結した岩石が侵食作用を受けている海岸で、一度侵食された地形は元にもどることがありません。一方、砂浜海岸は海蝕崖や河川から供給される土砂が、波や潮流の影響を受けて形成される地形であるため、土砂供給量や波浪・潮流の影響を受け、地形が侵食されたり堆積したりして、前進、後退を繰り返します。
 岬の先端や海岸の突出部からのびて水面上に現れる砂礫の高まりを州といい、州の一端のみが陸に接しているものを砂(さ)嘴(し)といいます。砂嘴がさらに延びて対岸に接している地形や、接しそうになっている地形を砂州といいます。離れ島と本土が繋がった州はトンボロ(陸繋砂州)といいます。道内では、サロマ湖の湾口砂州、野付半島の砂嘴、函館のトンボロなどが見られます。砂浜海岸の陸側が断崖である岬浜には、砂丘帯はほとんど形成されません。


砂浜海岸に見られる微地形

●砂浜海岸に見られる様々な微地形
 砂浜の海岸を観察すると、波や風によって作られるさまざなま微地形がみられます。波の打ち上げる場所は平らな砂面になっており、これをビーチフェースと言います。ビーチフェースの陸側には砂や礫が堆積し、平坦面を形成しています。この面を汀段(バーム)と言います。バームの陸側には、砂浜が侵食されてできた浜崖が形成されている場合もあります。一方、海上は、波の砕ける場所を砕波帯、砕けた波が陸に向かう場所を磯波帯、磯波が陸上に遡上する場所を遡上帯と言います。砕波帯の海底には、沿岸州という高まりが形成されている場合が多く、これより沖は沖浜と呼ばれます。沿岸州から低潮線(干潮面の海岸線)までは外浜と呼ばれます。低潮線から通常時の波の遡上する上限(ビーチフェースの上限)までを前浜と呼び、そこから陸側のバームが形成されている浜を後浜と呼びます。後浜は高波時に波が打ち寄せるため、ストームビーチとも呼ばれます。後浜より陸側には波は到達せず、風によって砂が運ばれる砂丘帯が形成されています。
 
  海岸砂丘はどのようにして形成されたのですか?
 
 海岸砂丘の形成には、砂の供給量や砂粒の大きさ、砂を運搬する風の強さと風向の安定性、植生の被覆量が影響します。日本列島では、北西の季節風が強く吹きつける日本海側の河口付近に、海岸砂丘が多くみられます。海岸砂丘の周辺や地下には古い砂州や古砂丘、旧砂丘があり、過去数万年から数千年間の海水準変動や気候変化の影響を受けながら、これらの海岸砂丘が形成されてきたことを示しています。


砂丘の形成条件


代表的な砂丘形態

●海岸砂丘の分布と形成される条件
 砂丘は、海岸砂丘、河畔砂丘、湖畔砂丘、内陸砂丘に分類されます。砂丘の規模や形態は、風速、風向の安定性、砂の供給量や粒度、植生の被覆量により変化します。例えば、風が強く砂の供給が少ないと海岸線に垂直な縦列砂丘が発達し、砂の供給が多く植生の被覆が少ないと海岸線に平行な横列砂丘が発達する傾向があります。日本海沿岸の大きな河口周辺は、季節風の影響により冬期に海から陸へ長時間風が吹くうえ、砂の供給量が比較的多く、海岸砂丘が多く分布する場所となっています。
 石狩海岸の後浜から砂丘帯にかけて、簡易トラップを設置し砂の移動状況を調査しました。砂の堆積量は秋〜春に多く、多い時期は少ない時期の100倍程に増加していました。季節風の強い冬期の飛砂の挙動が砂丘形成に影響していることが分かります。


砂の堆積量と風速


海岸断面と砂丘の変化

●石狩海岸周辺の砂丘形成の歴史
 約1万年前から始まる完新世以前に形成された砂丘は古砂丘と呼ばれ、石狩周辺では江別の野幌砂丘北端部に分布します。その後完新世に形成された海岸砂丘は、旧砂丘と新砂丘に分類され、縄文前期から後期(6500〜3000年前)に形成されたものは旧砂丘、その後おもに古墳時代以後に形成されたものは新砂丘とよばれます。
 石狩海岸周辺には、紅葉山砂丘と石狩砂丘が形成されており、それぞれ旧砂丘と新砂丘に相当します。紅葉山砂丘は約5000年前には形成されていたと考えられています。その後、海岸線が海側へ1000年で1kmのペースで前進し、現在の石狩砂丘の位置は1739年の樽前火山噴火以後に形成されたと考えられています。
 空中写真判読では、戦後から1960年代までの石狩の海岸は、地質時代に形成された海岸線と同様の前進速度、1km/1000年(1m/1年)の速度で海岸線が前進しました。しかし現在では、石狩砂丘はかろうじて北東側で海岸線の前進が続いているものの、南西部側では海岸線の侵食が進行しており、海岸線の後退が深刻な問題となっています。
 
  砂丘を形成する砂はどのように運ばれるのですか?
 
 岩石の風化侵食作用でつくられた土砂には、砂や泥、礫が含まれます。川や海の運搬作用は、同時に土砂の粒子をふるい分け、砂浜には砂の大きさの粒子だけを選択的に打ち上げます。砂は、さらに風で運搬されてふるい分けられ、堆積して砂丘を形成します。風により砂は、舞い上げられたり、地表を飛び跳ねたり、転がったりして運ばれます。風による砂の移動量は、風の強さと継続時間、砂の粒径と密度、植生の密度によってきまる地表の粗度により変化します。  

砂の移動形態

砂の粒度と移動限界風速

●風による砂の移動
 飛砂の移動形態には浮遊、跳躍、匍行の3種があります。最も風で移動しやすい砂粒は、乾燥した中〜細粒砂(粒径0.5mm〜0.125mm)です。地上30cmの風速が4〜5m/秒を超えると移動し、風速が低下すると堆積します。粒径の大きい砂礫や、逆に細かいシルトは、より強い風で移動し始めます。シルトは一度舞い上げられると、黄砂のように遠くまで運搬されます。砂丘上の砂は、海岸に打ち上げられた砂から、より飛ばされやすい粒径の砂が選別されて堆積していることが分かります。
 飛砂が移動できる最小の風速(移動限界風速)は、砂粒特性以外に海浜植物の被覆の影響を受けて変化します。植物は地表の風速を下げ、砂の再移動を防ぎます。


植生帯と砂の特性との関連

●石狩砂丘に見られる砂の動き
 石狩海岸の植生は、海側から、植生のない後浜、ハマニンニク群落帯、ハマナス群落帯、カシワ林帯に分かれます。これらの植生と砂の関係を見ましょう。
 砂の真密度σ(g/cm3)と粒径D(mm)から求める(σD)0.5値は、砂の移動限界風速と関連があり、値が小さいほど飛ばされやすい砂であることを意味します。この値は海から陸にかけて減少し、ハマナス帯には飛ばされやすい砂のみが、かろうじて飛来していることが分かりました。
 トラップへの砂の堆積量は海から陸にかけて指数関数的に減少します。特にハマニンニク帯で急激に減少し、50m陸側に移動すると砂の堆積量は100分の1に減少しました。ハマナス帯の砂の堆積量はわずかですが、陸側へ向けてさらに減少します。このことから海岸の砂は、おもにハマニンニク群落まで風で飛来し、ハマニンニクによって再移動が防止されていると考えられます。
 
  近年の石狩砂丘の侵食状況は?
 
 石狩海岸全体の汀線変化を平均すると、1980年代まで海岸は前進(堆積)傾向にありましたが、その後1990年代にかけて海岸は後退(侵食)に転じています。石狩海岸の北東側では、石狩川からの土砂供給を受けて現在も広い砂丘帯が形成されていますが、南西側では土砂供給量不足による海岸侵食が進行し、砂丘帯も著しい侵食を受けています。また、砂丘帯における無秩序な車両走行がもたらす海浜植物の破壊により、砂丘の風食も進行しています。

砂丘帯の幅と浜崖の位置変化

海岸の浸食状況

●空中写真判読等による砂丘地形の侵食
 石狩海岸の砂丘帯を空中写真判読により地形分類し、都市計画図の詳細な等高線を併用して砂丘帯の幅の分布を調べると、海岸と平行する石狩砂丘には標高10m以上の稜線と、この稜線の海側に第1砂丘、第2砂丘と呼ばれる比較的低く幅の広い砂丘帯が形成されています。かつては海岸と平行して帯状に形成されていたこれらの砂丘帯は、とくに小樽市側(南西側)で著しく侵食され、場所によっては第1砂丘と第2砂丘ともに侵食されている場所も見られ、砂丘地形に近年の海岸侵食傾向が現れています。


砂丘断面地形の変化

●2年間の断面地形変化
 石狩砂丘の小樽市側(南西側)と石狩市側(北東側)で、海岸線に垂直な方向の断面地形を測量しました。小樽市側の観測断面では、浜崖が内陸方向に侵食され、2年間に10mも後退していました。ここでは、海岸から浜崖まで1m幅で、2年間に23.1m3の砂が侵食されていたことになります。一方、北東側の観測断面では、2年間に内陸へ1mの浜崖の後退がみられ、1m幅で6.3m3の砂が侵食されていました。
 両地域の観測断面を横切る車両走行跡では、地面が侵食されて2年間に15〜30cm低下しました。走行跡では、植生が破壊されて裸地になったために、砂が風で飛ばされて、侵食が進んだものと考えられます。  
 
  もし海浜植物がなかったら、砂丘はどうなりますか?
 
 海浜植物がないと、風で砂が運ばれやすくなり、砂が大きく移動し、今のような砂丘地形は維持できなくなると考えられます。現在の砂丘は海浜植物によって作られたということができます。

植生残存区と刈り取り区の
砂の堆積、浸食状況

植生残存区と刈り取り区の砂の堆積量

植生残存区と刈り取り区の風速分布

●植生があると砂が堆積しやすい
 乾燥に強く、砂の堆積に応じて茎や地下茎を伸ばす海浜植物は、砂丘の形成に対してどのような作用を及ぼしているのでしょうか。海浜植物を除去すると砂の堆積量がどう変化するかを調べました。
 砂丘のハマニンニク群落で、海浜植物を刈り取って砂だけにした場所と、刈り取らない場所との砂の堆積状況を比較しました(左写真)。左下の図は、10月〜11月の17日間の砂の堆積量を示しています。植生残存区では、砂が平均14mm堆積していました。逆に、刈り取り区では、砂が平均21mm運び去られていました。下の図のように、風の強さは、植生残存区の地上4cmでは、刈り取り区に比べて28%弱くなっていました。植物がないと砂が飛ばされ侵食されていくのに対して、植物が存在すると地表面の風を弱め、海岸から飛んでくる砂を溜めやすくするのです。砂が侵食される所では植物は生長できないので、海浜植物が見られる所は全て、砂が堆積している所だということができます。


砂丘の崖に露出した空き缶


空き缶などの埋没期間と砂の
堆積量の関係

●砂丘の成長速度は?
 1年にどれほど砂が堆積されるのでしょうか。嵐の時などに波に洗われる砂丘の崖を観察しました。崖の断面には、左の写真のように、空き缶やゴミが顔を出しています。それらの製造年月日や賞味期限などから捨てられた時期を推定し、現在の地表面からの深さを測りました。場所によって違いがありますが、平均すると、1年に8.9cmずつ砂が堆積していました。見つかった空き缶などの周りには、ハマニンニクやハマナスなどの地下茎やその遺物があり、当時も海浜植物の群落であったことをしめしています。
 もし、これらの海浜植物がなくなったとしたら、強風によって砂丘から砂が飛ばされ、今の高さを維持できずに砂丘は崩壊するに違いありません。砂の移動量は大きくなり、植生のない砂丘は激しく形を変えると考えられます。そして内陸部へ大量の砂が飛ばされることになるでしょう。
 現在の砂丘は、海岸での砂の供給と海からの風に加えて、海浜植物が存在することによって形成されたということができます。
 
  海浜にはどんな植物がみられますか?
 
 海浜は、海からの風と飛砂、飛沫塩分、貧栄養など、過酷な環境条件下にあります。これに耐えることができる植物が、海浜に生育します。この環境条件は内陸に向かって緩和されていくので、それに対応した植生の帯状構造が見られます。


石狩砂丘の地形と海浜植物の分布


石狩砂丘の主な海浜植物

●海浜植物の分布
 海浜には、砂浜、砂州・砂嘴、砂丘などの地形があります。これらは、いずれも砂の供給が多い海岸に発達する堆積地形です。砂浜、砂丘では、海から内陸へ向かって、飛砂による地表の撹乱、貧栄養、塩などの影響が徐々に弱まるため、砂浜→不安定帯→半安定帯→安定帯という砂丘の構造変化にともなって、植生も分化し、左の図のような帯状構造が見られます。
 砂浜の、潮汐の変化によって海水に覆われたり被われなかったりする部分(前浜)には、塩性植物が生育します。その代表は、オカヒジキで、潮が滞留するような塩性湿地には、アッケシソウ、ウミミドリなどが見られます。
 これより内陸の不安定帯には、地下茎が発達し、砂の移動、不安定な砂地に適応した海浜植物が現れます。北海道では、ハマニンニク(テンキグサ)、コウボウムギ(道東ではエゾノコウボウムギが多い)、ハマニガナ、ハマボウフウ、ハマヒルガオ、ウンランなどです。これらの海浜植物は、茎葉で砂を捕らえて砂の移動を止め、堆積させる働きがあり、砂丘の形成にも一役かっています。
 海から離れるとともに、植生が発達して次第に安定してきた砂地(半安定帯)には、ハマナス、ハマエンドウ、ハマハタザオなどが生育します。
 半安定帯より内陸では、砂の移動はほとんどなくなり、地表は安定します(安定帯)。腐植層が形成され土壌形成がすすみ、海浜植物は次第に内陸性のものに置き換えられていきます。ハマナスに混じって、エゾスカシユリ、ノコギリソウ、エゾカワラマツバ、エゾカワラナデシコ、コガネギクなどが現れ、ヤマブドウやツルウメモドキなどのつる性木本も多くなります。この安定帯が、砂丘の中で最も植物種の多様性が高くなる場所です。
 また、砂丘列が何本かある砂丘では、砂丘間の低地が湿地になることもあり、海岸草原の中にアヤメ類など湿生植物が混じることも少なくありません。
 安定帯よりさらに内陸では木本種が生育できるようになり、海岸林が現れます。北海道の海岸林では、カシワ、ミズナラ、イタヤカエデがおもな優占種ですが、地域によっては、トドマツやアカエゾマツも見られます。海岸林の海側の樹木は、背丈が低く風下側に枝を伸ばした樹形をしています。しかし、内陸へ向かうにつれて、樹高は増し、樹種の数も増えてきます。地表の砂の動きは完全に止まり、腐食層の発達した土壌が形成されます。
 
  海浜植物には、どのような特徴がありますか?


ハマナス

ハマニンニク

ハマボウフウ

ハマニガナ

 海浜植物は、海浜の過酷な環境条件に適応した形態、性質をもっています。葉は厚くて光沢があります。根は長く深く、茎は低く地表をはい、地下茎になるものも多くあります。大部分が多年草で、再生能力が高く、地下茎で分布を広げます。

● 葉
 海岸では、植物の葉は、塩分飛沫を含む強風にさらされているため、水分が奪われやすい環境に置かれています。このような環境に適応して、海浜植物の葉は、厚く固い、光沢があるといった特徴をもちます。厚い葉は、内部に水分を貯め、水分が蒸発するのを防ぎます。葉に光沢があるのは、表面にクチクラ層が発達しているためです。これは、植物体内からの水分の蒸発を防ぐ、植物体内への塩分吸収を防ぐ、太陽光を反射し葉の温度が上がるのを防ぐ、といったことに有効であると考えられています。また、乾燥への適応として、乾燥すると葉を丸めたり落葉したりする性質をもつ種もあります。
● 茎
 強い風に耐えるため、背丈を低くする一方、地下茎が発達しています。
 代表的な海浜植物ハマニンニクでは、生育している砂丘を掘ってみると、地下170cmの深さのところでも枯死した地下茎が見られました。ハマニンニクの地上部を砂20cmの厚さにかぶせて放置し、50日後に掘り起こしてみると、すでに多数の不定根と地下茎の発生がみられました。地上部が砂に埋もれても、地下茎が伸びて、積もった砂の上に再び葉を広げることができるのです。このような性質は、砂の移動が激しい環境への適応です。また、砂丘の一部が侵食されても、地下茎でつながっていれば、植物体全体が削り取られることはありません。
 貯水性のある地下茎をもった植物もあります。これは乾燥への適応です。
 地上部は内陸へ向かうほど背丈が高くなります。これは、強風環境が緩和されるとともに、周囲の植物種数が増え、光をめぐる競争のためと考えられます。
● 根
 海浜の地表は、特に夏場は極度の乾燥にさらされます。一方、地中を掘ると、数十センチの深さから砂が湿っています。地中深くに根を伸ばすことで、水分を得やすいようにしていることも海浜植物の特徴です。
● 種子・実
 海浜植物の特徴的な種子散布様式として、海流散布があります。ハマヒルガオ、ハマエンドウの種子は、水に入れると浮きます。これは、種皮が堅く水が浸透しにくい構造をしているからです。また、ハマボウフウの果実には、コルク質が発達しています。コルク質も、長期間水に浮くことができる構造のひとつです。このように、海浜植物には、海流という自然条件を利用して種子散布を試みる種が少なくないのです。
 
  原生花園とはどのようなものですか?

エサヌカ原生花園

天塩川河口の海岸草原 1

天塩川河口の海岸草原 2

豊北原生花園

おもな原生花園の分布

 海岸砂丘などに発達した海岸草原のうち、ハマナスやエゾスカシユリ、エゾキスゲなどあざやかな花を咲かせる植物が多い場所の通称が「原生花園」です。オホーツク海沿岸で多く見られますが、石狩川、天塩川、十勝川など大河川の河口にも発達しています。

●原生花園の多くは人為作用による半自然の海岸草原
 原生花園は、砂丘海岸や砂嘴、砂州に成立します。また、海からの植生の帯状分布との対応を見ると、半安定帯〜安定帯に成立しています。
 半安定帯〜安定帯は、海岸草原の中でも砂の移動が少なくなり、植物種の多様性がもっとも高くなります。ここには、ハマナス、エゾスカシユリ、エゾキスゲなどの美しい花を咲かせる植物も多くみられ、これらの優占度が高まった場所が、原生花園と呼ばれています。
 原生花園は、オホーツク海岸に多く分布し、石狩川、天塩川、十勝川など大河川の河口にも発達しています。これらの地域の多くでは、海岸草原で馬の放牧を行われてきました。馬は、イネ科草本をよく食べるため、放牧が行われた海岸草原では、美しい花を咲かせるハマナス、エゾスカシユリ、ゼンテイカ、ヒオウギアヤメ、センダイハギなどの優占度が高まります。このように、原生花園と呼ばれる地域の大部分は、人為作用による半自然的な海岸草原です。
 原生花園という呼び名は、昭和30年代、網走国定公園内の浜小清水の海岸草原が北海道の名称に指定された頃に、一般に使用されるようになったと言われています。「原生花園」という言葉は観光的な通称なのです。
 砂丘や砂州・砂嘴のなどの海浜地は、砂丘間湿地や海跡湖など湿原環境をあわせ持つことが多く、海岸草原と混在する湿生草原を区別することなく、原生花園と呼んでいる場合がほとんどです。また、サロベツ原生花園やアヤメが原原生花園のように、海の影響をほとんど受けない湿原を原生花園と呼んでいる地域もあります。
 
  海浜地域では、いつ頃どんな花をみることができますか?
 
 5月から10月頃までの約6ヶ月の期間に、様々な植物の花をとぎれることなくみることができます。多くの植物は、6月から7月に花を咲かせ、気温の低い春や秋は花の種類は少なくなります。また、植物によって長い期間に次々と咲き続けるものもあれば、短期間に一斉開花するものもあります。

春一番に砂浜を彩るイソスミレ

●春に咲く花(5月)
 春、まず始めに目をひくのは、ハマハタザオの花です。他に目立った花のない時期に、群生地では一面に白い花が咲き乱れます。また、北海道南西部にはイソスミレが分布しており、ハマハタザオよりもさらに早く、紫色の花を咲かせます。

ハマナスが咲く石狩浜の夏

エゾスカシユリやゼンテイが咲く
夏の幌延町浜里海岸草原

●初夏に咲く花(6月〜7月)
 5月下旬から6月初旬になると、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、ハマニガナなどよく知られた海浜植物の花が咲きはじめ、6月から7月に開花のピークを迎えます。これらの植物は開花期間が長く、花の数は減るものの、海浜地域の花のシーズンが終わる頃まで咲き続けます。海岸草原では、ピンク色のハマナス、黄色のゼンテイカやセンダイハギ、鮮やかな朱色のエゾスカシユリなどの花がみられるのもこの時期です。また、ヒメイズイ、スズラン、クロユリなども咲き、原生花園の花の見頃が始まります。海岸草原から海岸林にかけて、キンギンボク、マユミ、イボタノキなどの低木類やヤマブドウ、ツルウメモドキなどの木本の蔓植物がみられますが、これら樹木の花は、6月頃一斉に開花します。多くは、地味で気づきにくいのですが、キンギンボクは白い花を枝にたくさんつけ、よく目立ちます。

コガネギクの黄色に染まる秋の石狩浜

石狩浜でみられる虫媒花植物の
開花期間

●秋に咲く花(8月〜)
 秋になると、海岸草原でみることのできる花はとても少なくなります。砂丘に生育するウンランは、7月頃から咲き始めますが、ピークは9月です。ほとんどの花のシーズンが終わっても最後まで咲き続けます。アキノキリンソウやコガネギクは、8月下旬から9月に開花のピークを迎えます。この時期には、ツルウメモドキや、マユミ、キンギンボクなどの果実が成熟し、葉も黄や赤に色づいて、華やかな夏とは違った美しさがあります。
 
  海浜植物は、受粉をどのように行っているのですか?


石狩浜の主な植物の受粉様式


石狩浜における虫媒花植物の開花
種数と訪花昆虫の観察種数の変化


ハマハタザオの花の蜜をなめる
カミキリモドキの仲間


ハマエンドウの花に訪れた
ニセハイイロマルハナバチ

 海浜植物の受粉様式には、主に風媒と虫媒がみられます。イネ科やカヤツリグサ科の植物の花は、花粉を飛ばされやすい形をしており、風を利用して効率的な受粉を行っています。一方、虫媒花植物の多くは美しい花をつけ、訪花昆虫が豊富な時期に花を咲かせます。また、一斉開花や次々と長期間咲く順次開花など、花の咲かせ方も受粉のチャンスを高めるための適応なのです。
 植物は自ら移動することができないので、多くの場合、花粉を風や動物などによってめしべに運んでもらい(花粉媒介)、受粉を行います。


●風媒花
 海浜でよくみられるハマニンニクやチガヤなどのイネ科植物、コウボウムギ、チャシバスゲなどのカヤツリグサ科の植物は、風媒花植物です。一斉に開花するこれらの植物の花は雄花と雌花に別れており、花茎の先端についた雄花は、花粉を露出させて風に飛ばされやすくなっています。また、ハマニンニクのように純群落を作るなど、共存する植物が少ないために他の植物によって花粉の移動がじゃまされにくいことや、常に風が吹き、乾燥している海浜地域の環境条件は、風媒に適していると考えられます。

●動物媒花
 一方、昆虫に花粉を運んでもらう植物(虫媒花植物)もあります。原生花園の美しい花は、昆虫を呼び寄せるために咲かせているのです。石狩浜では、蜜や花粉を求めて花を訪れる昆虫(訪花昆虫)の種数が急激に増加する6月頃、開花のピークを迎える植物の種類も開花シーズン中最も多くなりました。昆虫に効率よく花粉を運んでもらうため、花の咲かせ方も様々に進化しました。春から初夏にかけて花を咲かせるハマハタザオやエゾスカシユリ、キンギンボクなどの樹木は、一斉に花を咲かせる傾向があります。アピール度を高め、より多くの訪花昆虫を集めるためです。また、ハマナス、ハマエンドウ、ハマニガナなどは、初夏に開花のピークを迎えた後も、次から次へといろいろな個体が花を咲かせ続けます。一方、ナミキソウは、同じ個体のなかで多くの花を順次開花させます。開花期間を長くして、受粉のチャンスを高める作戦です。しかし、天候によっては、昆虫が活動できない日もあります。特に、春に花を咲かせる植物は、気温の低い日も多く、受粉を昆虫だけに頼っているわけにはいきません。このような植物のなかには、同じ花の花粉で自ら受粉するしくみをもち、自家受粉によって種子生産を補っているものもあります。なかには、自家受粉専門の“咲かない花(閉鎖花)”をつけるイソスミレのような植物もあります。
 
  海浜植物にはどれくらい種子ができますか?

エゾカワラナデシコの袋掛け実験


石狩浜の海浜植物7種についての
花あたりの種子数、自然結実率、
袋掛け後の結実率


ハマハタザオ花


ハマボウフウの花序


ハマボウフウの花序の模式図


ハマエンドウの種子を食害する
エンドウシンクイの幼虫

 花あたりに実る種子数は、植物によって大きく異なります。胚珠の数や、開花から結実までの過程でおこる花粉不足や資源不足、食害などによって、種子の実り具合が決まります。自家受粉によって、花粉不足を補っている植物もあります。

●結実率に影響する要因
 海浜植物には、どれだけ種子が実るのでしょうか。石狩浜で調べた虫媒花植物では、一つの花に実る種子の数は種によって大きく異なっていました。花あたりに実る最大の種子数は、種子のもとになる胚珠の数によってきまります。しかし、花に準備された胚珠が全て種子になるわけではありません。雌しべが受け取った花粉の量は十分か、受精に適した花粉を受け取ったか、すなわち、受粉が成功したかどうかや、種子を実らせるための十分な養分があるかどうかによって、実る種子の数は影響を受けます。

●花粉不足
 花あたりの胚珠数に対する実った種子数の割合を結実率と呼びます。結実率は、種によって大きく異なります。その理由を明らかにするため、昆虫に訪花させないよう咲く直前の花に袋掛けをおこない、結実率を調べました。自然結実率の低いハマナス、ハマエンドウ、ヒメイズイ、イソスミレは、袋掛けをすると全く結実しないか、してもわずかで、受粉には昆虫の働きを必要とすることがわかりました。一方、結実率の高いエゾカワラナデシコ、ハマハタザオ、ハマボウフウは、袋掛けを行ってもある程度の結実が得られました。これらの植物は、受粉を昆虫だけに頼っているのではなく、自ら自家受粉を可能にする仕組みを持ち、訪花昆虫の不足を補っていると考えられます。

● 資源不足
 受粉が成功しても、種子が実らない場合があります。また、つぼみの段階で落ちてしまう花もあります。種子をつくるために必要な養分(資源)が不足しているのかもしれません。親植物は、より早く受粉した花や花粉をたくさん受け取った花に優先的に資源を配分します。限られた資源で少しでも将来生存する可能性の高い種子をつくるためです。種子を作らなかった花は、先に成熟した種子が昆虫の食害を受けるなどした場合の予備としての役割や、セリ科のハマボウフウのように、訪花昆虫を集めるためのディスプレイとして、あるいは、はじめから雌しべを持たない花粉親として働く場合もあります。

● 食害
 せっかく大きくなった種子が、ガやゾウムシなどの昆虫によって食害されてしまうことも、たびたびあります。卵が花に産みつけられ、幼虫は果実の中で種子を食べて成長するのです。
 
  海岸にはどのような樹木が生育していますか?


北海道各地の海岸に生育している
主要な樹種


豊富町稚咲内における
天然生海岸林の帯状区

 海岸に生育している樹木は、塩風を受けても枯れにくく、冬の土壌凍結と強風による乾燥害に強いという特徴があります。北海道に自生している樹木では、ハマナスとカシワが全道各地の海浜に分布しており、耐塩風性ミズナラも道北地方の海浜に生育しています。海岸の斜面ではイタヤカエデやその他の樹種もみられます。冬季の乾燥害が発生しにくい場所では、トドマツ、アカエゾマツも生育しています。

●各樹種の分布
 日本海沿岸、太平洋沿岸、オホ−ツク海沿岸とも地形的に開放された海浜にはハマナス、カシワが広く分布しています。道北地方の天塩川河口からオホ−ツク海にかけての海浜には、普通のミズナラに比べて塩風を受けても枯れることの少ない耐塩風性ミズナラが分布しています。また、海岸段丘等の斜面には、日本海沿岸はイタヤカエデが各地で優占樹種となっており、太平洋沿岸、オホ−ツク海沿岸では各種広葉樹が生育しています。道北部から道東部にかけては、一部にトドマツやアカエゾマツ等の常緑針葉樹も生育しています。

●飛来塩分と各樹種の関係
 北海道の海岸に生育している樹木の枯死は、主に冬期間の海からの飛来塩分によって発生します。豊富町稚咲内のミズナラが優占する海岸林の構造をみてみましょう。海岸に近い場所では塩風に強いミズナラが優占し、枝先が枯れブッシュ状になっています。このブッシュ状のミズナラ林の存在が、イタヤカエデ、エゾヤマザクラ、ナナカマドなど塩風に弱い樹木が林内や後方で生育するのに大きな役割を果たしていると考えられます。

●太平洋沿岸やオホ−ツク海沿岸の海浜でもナラ類以外の樹種が分布しているのは?
 塩風に対して強いのはカシワや耐塩風性ミズナラですが、実際の分布は、他の樹種も各地の海岸に出現しています。この理由は、海からの飛来塩分量の違いにあります。日本海沿岸では海のある西方向から強い風が吹きつける日数が多いのに対し、太平洋沿岸やオホ−ツク海沿岸では海のある南や東方向からの強い風が少ないのです。そのため、太平洋沿岸やオホ−ツク海沿岸の海浜ではカシワ以外の樹種が生育可能な条件にあります。また、トドマツ等の常緑針葉樹も、強い風が吹く日数が少ないことにより冬季の乾燥害を受けずに生育していると考えられます。
 
  海岸林の生育を妨げる要因にはどのようなものがありますか?

 海岸林の生育を妨げる要因として、強い海風に運ばれる飛来塩分や、砂丘未熟土壌や泥炭土壌といった土壌条件などがあります。
 海岸地域は厳しい環境のため、海岸林の生育が妨げられ、海岸に近い場所では樹木の成立が困難な場合もあります。このような海岸林の生育を制限している環境条件として、気象要因と土壌要因があげられます。


天然生カシワ林前線の梢端枯死


生存している側芽と葉痕部の褐変


冬期の塩風害発生メカニズム


●気象要因:強風と飛来塩分
 日本海北部沿岸は、オホーツク海沿岸、太平洋東部沿岸と並んで、冬季の気温が低い地域です。さらに、日本海沿岸部は風が強く、一年を通じて海からの西風が多いことが特徴です。これらの地域では年平均風速が5m/sを越えており、また、風速10m/s以上の強い風が吹く暴風日数が多いのも特徴です。このような強い風は葉からの水分の蒸散を促進するため、葉が乾燥しやすく、衰弱しやすい状態となります。
 日本海沿岸の天然生海岸林では、梢端部が枯死したカシワやミズナラが見られます(左写真)。芽が枯れる過程を観察すると、葉痕部(夏に葉が着いていた痕で、冬芽の基部にある)から褐変が進行し、最終的に芽全体が枯死してしまいます(左図)。これらの枯死原因は、海風に運ばれ枝に付着した飛来塩分が、葉痕から枝内に侵入することによるのです。
 では、なぜ塩分が樹木の体内に入った時に芽や枝が枯死するのでしょうか。左図のように植物の細胞は高濃度の塩分に浸されると、細胞の水分・養分の吸収阻害や水分保持の阻害が起こります。さらに、大量の塩分が入ると細胞が脱水され、乾燥してしまいます。さらに、細胞内に高濃度の塩分(特にナトリウムイオンや塩素イオン)が侵入するとタンパク質などの物質の変性が起こり、細胞が機能を失い、やがて芽や枝全体が枯死します。

砂丘未熟土

泥炭土

●土壌環境:砂丘未熟土と泥炭土
 日本海北部沿岸の平坦地の多くは砂丘未熟土です(左上写真)。砂丘未熟土は植物の生育に必要な水分・養分やそれを蓄える容量が乏しいために、一般に樹木の成長は良好ではありません。
 また、河川や湿原周辺の低地の一部には、泥炭土が分布しています(左下写真)。泥炭土はスゲなどの植物遺体が水中に堆積する過程で、酸素供給が行われない還元的分解作用により形成されます。泥炭土は土壌水分が過剰で通気性が悪く、さらに腐植が多く強酸性を示し、無機養分にも乏しいという特徴をもっており、そのままでは樹木の生育には適しません 。
 
  海岸の塩分はどのように分布していますか?
 
 海岸付近の塩分濃度は内陸に入るにしたがい、拡散と地表面での捕捉により、指数関数的に減少します。段丘面では斜面下部と段丘肩部後方が弱風域となり、塩分濃度も減少します。

冬期間における飛来塩分量の
水平分布


汀線から 200m までの飛来塩分の
垂直分布

●海岸での飛来塩分
 大陸から吹き出す冬の季節風は日本海を渡るときに海塩を含み、塩風となって海岸林に吹きつけます。この塩風に含まれる塩分は、風速が7m/s以上になると急増するといわれています。カシワの冬芽の枯死率は、この風速以上の海風にさらされる期間と密接な関係があります。空気中の塩分量は海面上で最も多く、内陸に入るにしたがい空気中への拡散と、陸上の障害物や地面などとの摩擦により弱まり、しだいに減少します。カシワの天然生海岸林が生育できる限界は、汀線付近の飛来塩分量に対する相対塩分量が約30%未満の場所とされています。これは、砂丘がある天塩町や石狩湾の海岸では汀線からおよそ100m〜300m後方の場所に相当します。

● 飛来塩分の水平分布・垂直分布
 海岸付近の塩分量は海岸からの距離や地表からの高さにより、どのように異なっているのでしょうか。平坦地における相対塩分量の水平分布を左上図に示しました。海岸から100m付近の天然生カシワ林の最前線の値を100として相対値で示すと、内陸に入るにしたがい、指数関数的に減少することがわかります。一方、 左下図のように垂直分布は、汀線付近では塩分が供給される海面付近が最も高く、高度が高くなるにしたがい減少します。しかし、内陸に入るにしたがい、地表面付近の塩分は拡散と捕捉により減少します。飛来塩分は地表から1m以内では急減するため、厳しい海岸でも低い植生ならば生存できると考えられています。

● 地形と飛来塩分
 地形が段丘状の場合、段丘斜面の下部と段丘の肩の後方が弱風域となり飛来塩分量も減少するため、樹木の生育にとって有利な場所となります。このような場所ではカシワ、ミズナラ以外に、イタヤカエデやハリギリ、シナノキなどの樹種を見ることができます。



浜里地区における飛来塩分量と
測定位置

● 海岸付近の飛来塩分量
 幌延町浜里地区の土砂採取跡地付近で測定した飛来塩分量の分布を左図に示しました。海岸付近の値を100とすると、第1・第2砂丘の谷部、および第2砂丘頂上では海岸付近の値の約45%でした。一方、海岸から約150m内陸のNo.4では急激に減少し、海岸付近の27%でした。このような急激な低下は、塩分量が海岸からの距離に応じて指数関数的に低下することに加え、砂丘の背後で陰になっていることや道路法面など微地形の影響により風が弱められ、塩分量が低くなったものと考えられました。また、土砂採取跡地の植栽試験地(No.5、6)ではNo.4とほぼ同様の値を示しました。樹木の生育限界を示す塩分量は海岸線の1/3程度といわれており、植栽地では生育限界に近い値です。
 したがって、改変される前にあった海岸林を復元するには、もとの砂丘のように、地形に起伏をつけて風が弱まる場所を作り、冬期間雪を堆積させるような対策が必要と考えられます。また、地元の耐塩性の高い樹種を選ぶことも重要です。
 
  海岸にはどんな鳥が生息していますか?
 
 海岸から内陸に向かい、砂浜、草原、森林と環境が変化する場合には、それぞれの環境に特有の鳥が生息しています。また、湿地、湖沼、河川に結びついて生息している鳥がいる一方、異なる環境をセットで利用し生息している鳥もいます。



生息環境と鳥類相
(日本海側北部の例)

 海岸で見られる鳥と生息環境について、日本海側北部の幌延町浜里海岸の例を左図に示します。この地域は大規模な土砂採掘が行われ、裸地に近い地域も見られます。

●岸線・砂浜
 海岸線や波打ち際の砂浜は、ウミネコやオオセグロカモメなどのカモメ類やシギ・チドリ類に利用されます。カモメ類は海岸線に沿って餌を探しながら飛んでいます。

●海岸草原
 海岸草原では、ノゴマやシマセンニュウなど草原特有の小さな鳥が多く見られます。これらの多くの鳥は春に繁殖するために北海道に渡ってきます。巣は草の根元やハマナスなどの低木につくられ、採餌も草原内で行うなど、草原との結びつきが非常に強いのが特徴です。繁殖期には目立つ場所で盛んにさえずる鳥が多く、見通しも良いため観察しやすくなります。これらの小さな鳥のほかに、中型のカッコウや捕食者であるチュウヒなども草原を中心に生息しています。また、マガモなどカモ類も草原で繁殖します。


繁殖テリトリー数

●土砂採取跡地(裸地)
 砂利を採取した跡地は、植生の回復が遅く裸地化している場所が多くなっています。このような植生の少ない場所ではヒバリが代表的な鳥となります。植生が回復している場所には前述の海岸草原に生息する草原性の鳥が生息していますが、その密度は海岸草原より少なくなります( 左表)。

●低木林
 カシワやミズナラからなる背の低いナラの林には、エゾセンニュウやビンズイなどの灌木性の鳥と森林性の鳥が混在して生息しています。次項の内陸の森林と比べると、種数は少なく、キビタキなどが生息していないことが特徴です。

●針広混交林や広葉樹林
 海岸線から少し離れ、内陸部には針広混交林や広葉樹林が広がっています。ここにはキビタキやアカゲラなどの森林性の鳥がたくさん生息しています。一方で、河川や海で採餌するミサゴやオジロワシの巣は樹上につくられるため、このような大型で広い範囲を行動する鳥によっても利用されます。

●河川・沼
 ミサゴやオジロワシは河川や海で採餌をするため、河川や海岸上空を飛んでいるところがよく観察されます。また、ショウドウツバメは河川の崖に巣を作り、河川や小さな沼の上で盛んに虫を捕食します。
●つながり
 このようにそれぞれの植生で特有の鳥類群集が存在しますが、植生の移行帯で鳥の行き来があったり、比較的体の大きな鳥は多くの環境を利用したりすることでそれぞれの鳥類群集は結びついています。そのため、移行帯も生息地として重要であり、生息範囲の大きい種はさまざまな環境がセットでそろっていることが重要です。
 
  鳥の繁殖期はいつですか?
 
 鳥の繁殖期として重要な期間は、巣場所の決定時期からヒナが巣立ちした後、しばらくして自由に飛び回れるようになるまでです。北海道では地域差があるものの、ほとんどの鳥は2月〜8月の期間が繁殖期になります。
 
● 夏鳥の繁殖地としての海岸草原
 北海道の草原は繁殖地として非常に重要な場所となっています。北海道の冬は積雪に覆われ気温も低くなり生息条件が厳しくなります。一方で、春から夏にかけて一斉に草や樹木が芽吹き、たくさんの虫が発生します。多くの鳥にとって餌が得やすく、繁殖するのにちょうどよい季節になります。そのため、北海道では春に南から繁殖のために渡ってくる夏鳥が多くなります。特に草原は夏と冬では環境が大きく変化するため、森林よりいっそう夏鳥が多くなります。

繁殖スケジュール

● 繁殖スケジュール
 鳥の繁殖は、まず、つがい相手を決めることや繁殖場所を決めることから始まります(左図)。巣場所が決定すると巣を造り、毎日または数日おきに産卵を行います。そして、卵を暖め始め、やがてヒナが孵化します。孵化したヒナの多くは、巣内で親から餌をもらいます。カモやタンチョウなど一部の鳥は、孵化後すぐに歩いて移動しながら給餌を受けます。巣内で成長したヒナは、一定以上の移動ができるようになると巣立ちをします。巣立ち後しばらくの間は、移動も餌の確保も上手にできないため、巣周辺で親からの給餌を受けます。

各鳥の繁殖習性

● 繁殖のために海岸草原に渡来する夏鳥
 草原性の鳥のうち早い鳥は4月頃に北海道に渡ってきます。そして、渡りの遅い鳥や繁殖を1シーズンに複数回行う鳥などがいるため8月中旬頃まで繁殖期となります。例えば、日本海側北部の草原の例では4月になり、雪が解けるとまずヒバリが渡来します。その後すぐにノビタキが渡来し、オオジュリン、ノゴマ、ホオアカと続きます。少し渡来の遅いシマセンニュウがやってくるのは、5月下旬から6月上旬となります。そして、6月中旬になって最も遅くコヨシキリがやって来ます。
● 猛禽類の繁殖期
 留鳥性の猛禽類の繁殖開始時期は早く、2月頃から巣場所を決め始めます。しかし、何らかの理由で繁殖開始が遅くなったつがいもおり、巣立ち日は8月までずれ込みます。一方、渡り鳥であるミサゴやチュウヒの繁殖開始はこれより少し遅いようです。猛禽類ではヒナを育て上げるには多くの時間がかかるため、繁殖の失敗後再び繁殖活動をすることが少なく、繁殖の失敗は個体群に大きな影響を与えます。
● 鳥の繁殖と工事時期との関係
 2月〜8月までは繁殖期にあたるため、環境改変を伴う工事などは、この時期は避けるのが望ましいでしょう。特に猛禽類などの大型の鳥は、周辺部の工事でも影響を受け、繁殖を中止する場合があるため注意が必要です。専門家の助言と適切なモニタリングが必要です。
 
  海浜にはどんな昆虫がいますか?それらはどんな役割をしていますか?
 
 砂浜には、流れ着く動植物の遺がいを食べる虫がいます。これら腐食性昆虫は、砂浜の掃除屋の役割をしています。海浜植物群落には、葉や種子などを食べる植食性昆虫がいます。花の蜜や花粉を食べる訪花昆虫は、花粉を運ぶことで海浜植物の種子生産を助けます。


昆虫類の生息する流木の多い海浜地


石狩浜海岸草原で観察された
訪花昆虫


おもな訪花性昆虫が訪花した花と
その頻度

●砂浜の虫
 石狩湾岸砂浜地帯では次のような小甲虫類が見られます(左表)。シデムシ、エンマムシ、ゴミムシダマシなどは、流れ着いた生物の遺がいなどの下で見つかることが多く、これらを食べているものと思われます。クワガタムシ、コメツキムシ、カミキリムシなどは、流木下で見つかることが多いようです( 左写真)。おそらく、幼虫が材食性なので、流木を食べて育った幼虫が羽化したか、そこに産卵しに来ているものと思われます。他にも、ハムシ、ゾウムシなど、植食性のものも見つかっており、海浜植物群落を生息場所としているものと思われます。

●訪花昆虫
 海浜植物の花を訪れる虫は、2003年の調査に基づくと左表のとおりです。左図に代表的な訪花性昆虫がどの花を訪れるかを示しました。多くの虫が集まっている植物は、虫たちにとって特に重要であることがわかります。昆虫は植物の花粉を運ぶという大切な役割を担っています。花の種類が多く、とぎれることがなく連続して花が咲く海岸草原の環境は、これらの虫たちの食物を継続的に提供してくれる場所として、虫にとって大切な環境なのです。

●植食性昆虫
 ハマエンドウの種子には、マメゾウムシの仲間、葉には先端を巻いた中にいるガの幼虫や潜葉性のガの幼虫など、ハマエンドウ1種でも、多様な昆虫種がみられます。また、果実・種子食の昆虫に着目すると、ハマエンドウのほか、ウンラン、ヒロハクサフジ、エゾカワラナデシコなど多くの種で見られます8)。海岸草原の豊富な植物種は、多様な植食性昆虫の生活を可能にしています。

●エゾアカヤマアリ
 石狩浜の海岸草原の海岸林との境界付近には、エゾアカヤマアリの大コロニーがあります。かつては2.7km2あたり約45,000巣、約3億のアリがひとつの家族として生活していました9)が、現在では、港建設、海岸草原の過度な利用などにより、数を減らしてしまったといわれています。
 
  鳥や昆虫のほか、海浜にはどんな生きものがくらしていますか?
 
 波打ち際や砂浜には、シギ・チドリ、魚などの餌になるヨコエビやゴカイなどがいます。草原には、海浜植物の実や昆虫を食べるノネズミ、これを食べるキタキツネや猛禽類などもくらしています。海浜では、多種多様な生きものが食物連鎖を通してつながっています。



砂丘生態概念図

●波打ち際〜砂浜
 波打ち際を歩いていると、ハマトビムシなどヨコエビの仲間がよく観察されます。これらは、波間の有機物を食べ分解しています(左図-@)。シギ、チドリや、カレイなど沿岸の魚類の食物でもあります( 左図-A)。
 砂浜では、昆虫類もくらします。流れ着いた生物の遺がいを食べる砂浜の掃除屋です。流木の下や、背後の海浜植物群落を隠れ家にしています(左図-B)。

●海岸草原
 食葉性や訪花性の昆虫が数多くくらしています。これらの昆虫は、野鳥、おもに草原性の小型の夏鳥の大切な餌です。トカゲ、ノネズミなど小型の動物類にとっても大切な食物となっています(左図-C)。
 海浜植物の種や実は、野鳥やノネズミ、キツネの秋の大切な食物です。また、春先、昆虫類が少ない時期に渡ってきたヒバリなどの草原性の野鳥は、前年に落ちたタネや実を食べて過ごします。
 ノネズミや野鳥を食べてくらしているのが、キツネやイタチ類など中型の哺乳類や猛禽類です(左図-D)。これらは、餌の少ない時期を補うように、背後の海岸林との間を行き来して、食物を得ているものと思われます(左図-E)。
 ミツバチ、マルハナバチなど、季節を通して花粉や蜜を必要とする訪花昆虫も、花を追いかけて海岸林と海岸を往来しているものと思われます(左図-F)。

●海岸林
 海の影響が緩和され、地表には腐葉土がつもり、海岸草原よりも、土壌生物が一層多様になります。樹木に依存する昆虫、土壌動物や木の幹や枝に棲む昆虫を食べる野鳥、木の実や昆虫を食べるノネズミやリスがくらします(左図-G)。石狩浜では、融雪期のみ水が溜まる砂堤列間湿地に、キタホウネンエビといった珍しい生物もくらします。
 
  海岸の再生事業で、留意すべきことは何ですか?
 
 地域特有の生物多様性、環境保全機能、利用、地域の歴史や伝統、事業の経済的な妥当性などを総合的に考え、地域の現状にあった具体的な目標を設定して、合意形成を図ることが大切です。

キーワード 自然再生事業、生物多様性、自然の回復力、協働、モニタリング

解説
 海岸の保全、再生の計画を立てる際に、再生すべき目標をどのように設定し、どのようなことに留意すべきかについて、自然再生推進法1)の理念や自然再生事業指針2)の主旨にそって解説します。なお、自然再生推進法は、「新・生物多様性国家戦略」を受けて2003年に立法化されたもので、国が行う自然再生事業を、NPOや専門家などの参画よる地域主導の事業として位置付け、その基本理念や具体的手順等を示しています。自然再生事業指針は、日本生態学会生態系管理専門委員会が、生態学の立場から自然再生事業において考慮すべき諸事項を検討し、とりまとめたものです。

● 地域の現状にあった具体的な保全目標を
 保全、再生すべき生態系の姿について、どのような目標を設定するかの答えは、1つだけではありません。人手のほとんど入らない原生的生態系への復元から、恵み豊かな資源を持続的に利用できる二次的自然の生態系まで、様々な段階が考えられます。
 北海道の海岸は、知床、サロベツ北部海岸、十勝海岸など、自然度の高い海岸が多く、原生的生態系をめざした保全、再生は重要な課題です。
 一方、人の手が加わることによってすぐれた景観が維持されてきた海岸もあります。例えば、小清水海岸の広大な原生花園は、野火や放牧によって森林への遷移が妨げられた二次的自然であると考えられています3)。近年ハマナスなど海浜植物の衰退が目立つため、伝統的な放牧を復活させたり、野焼きをして、人為によって遷移をとめ、海岸草原の回復をはかろうという試みが進められています4)。
 幌延町浜里地区の海岸では、戦後の開拓によって酪農が営まれ、その後、砂利の採取や、採取跡地の再牧草地化などが進み、大きな改変を受けました。現在、跡地では川の浚渫土砂などを埋め戻し、海岸地域の再生事業が行われていますが、一気に砂丘植生を復元することは困難でしょう。もとの砂丘地形のように凹凸をつけ、外来植物などの二次的な植生の要素を残しながら、海浜植物が生育しやすい環境を作ることが目標になると考えられます。
 また、石狩海岸のように、車の乗り入れによって砂丘地形が破壊されている地域では、まず車の進入を禁止し、植生を定着させる手だてが必要です。このような地域では、植生が維持される範囲で、資源が利用できる二次的自然も保全目標の1つと考えられます。
 再生事業に参加する多様な主体の間で、再生の目標などに差異が生じることも考えられますが、生物の多様性、環境保全機能、生物資源の利用、地域の伝統などを総合的に考え、地域の現状にあった具体的な目標を設定して、合意形成を図ることが大切です。
 海岸地域の健全な生態系を保全、再生するには次のような原則が必要と考えられます。

● 地域の生物を保全する
 同じ生物種でも地域によって異なる遺伝組成と進化の歴史を持っており、保全の対象は地域固有の系統です。例えば、同じミズナラでも生育地が違うと塩風にたいする強さが異なります(Q13)。種の再導入を行う場合は、原則として、その土地に生活し、適応し、進化してきた、その土地固有の系統を用いるようにします。

● 種の多様性を保全する
 生態系の中で、全ての生物は互いに関係しあって生きています。保全の対象は、特定の希少種などに限定するのではなく、地域の生態系を構成するすべての在来種個体群が、その土地から失われないように配慮する必要があります。

● 種の遺伝的変異性の保全に配慮する
 特定の種を保護、増殖する場合には、遺伝的変異を保つために有性繁殖の条件を整えることが重要です。組織培養や少数の親から育てた苗だけで再生された個体群は、遺伝的に均質で、土地固有の遺伝子のごく一部しか残しておらず、望ましいとはいえません。

● 自然の回復力を活かし、人為的改変は最小限にとめる 
 保全、再生のために、積極的に大きく環境を改変する前に、回復を阻害している要因を除去することで再生が図れないか、検討する必要があります。生態系の維持機構についてはわからないことが多く、無用な手を加えてますます自然が悪化するおそれもあります。できるだけ自然が持つ回復力を活かすように計画を立てる必要があります。

● 事業に関わる多分野の研究者が協働する
 生態系が劣化する原因は、複合的な場合が多く、保全、再生を計画するには、関係する諸分野の研究者の協力が必要です。私たちの海浜環境を保全するための研究も、地形・地質、植物の生態、栽培技術、鳥類の生態、利用のあり方など、様々な分野の研究者が集まって取り組みました。

● 目標の実現可能性を重視する
 保全、再生の目標が、科学的な根拠に基づいているか、経済的に妥当であるか、社会的に支持されるかを検討し、実現可能性の高い方法が採用できるように努力する必要があります。

● モニタリングを行い、事業の効果を科学的に検証する
 事業が効果的に進められたどうかを検証するためには、長期的、継続的なモニタリングが欠かせません。計画の段階でだれがどのようにモニタリングし、事業にどのように反映させるかを具体的に示しておく必要があります。必要に応じて計画や事業の内容を見直していくことが重要です。
 
  海浜の自然環境を消失、衰退させている原因はどのようなものですか?

 道路や建物の建設、砂の採取やゴミなどの埋め立ては、重度の破壊で回復不能になります。また、近年は波による侵食が進み、さらにその対策としてなされる護岸工事によって、海浜植物群落が消失しています。レクリエーションのためのRV車の乗入れ、キャンプ場設営なども、各地の海岸の海浜植物群落を衰退させています。

キーワード 護岸、堤防、埋め立て、砂採取、キャンプ場設営、RV車の乗入れ、外来植物

写真1 堤防・消波ブロック

解説
● 波による侵食
 侵食により、海岸が消失している地域は、オホーツク海沿岸や十勝海岸、釧路海岸など各地で報告されており、海浜地に隣接して生活する人たちにとっては、深刻な問題です。
 海浜植生への影響を見ると、波による侵食は自然作用の一つとも考えられ、侵食されても内陸植生が海浜植生に置き換わり、植生の帯状分布が後退するだけで、生態系に修復不能なダメージを与えるものではないとも言われています1)。しかし、原生花園を観光資源としている地域や、ガンコウラン、コケモモ群落など貴重な植物群落がみられる地域では、観光資源や地域の貴重な自然資源の喪失にもつながりかねません。

● 護岸工事
 波による侵食を防ぐために、護岸工事や堤防の建設が行われます。しかし安易に工事を行うと、砂浜の植物に大きな影響を及ぼします1)(写真 1)。

写真2 RV車の乗り入れ

写真3 車走行によりできた裸地

写真4 自然状態の砂浜

写真5 砂浜の過度な利用

● 砂利の採取
建物や道路の資材として、砂丘の砂や小石が採取されてきました。採取跡地は、牧草地などに利用されたり、埋め戻したりされているところが多いのですが、海岸の自然植生に大きなダメージを与えます1)。

● 保安林造成
 自然状態の植生の帯状分布に従わず、本来海岸草原や砂浜である場所に、飛砂防備を目的とした保安林が造成されている地域もみられます。これでは、海浜植物群落を消滅させてしまうだけでなく、せっかく植栽された木も、海に近すぎて枯れてしまいます1)。

● 過度なレクリエーション利用
 海浜レクリエーションのため、各地の海岸でキャンプ場設営やそのための駐車場、道路が建設されています。これらの周辺には、本来生育しない園芸種が移植されることもあります。
 自然海浜が維持されていても、そこにRV車やバギー車が乗入れ、多くの人が踏みつけ、植生にダメージを与えている地域は少なくありません1)(写真2、3、Q22)。これらの行為は、柵を設置し保護区などを設けることで防ぐことができ、また植生がダメージを受けても、ある程度は自然回復可能であると考えられます2)。ただし、車の走行により極度に侵食された砂丘は、新たな風の通り道ともなり、植生の自然回復は不能となります。
 また、海水浴による砂浜の過度な利用は、波打ち際で生活する生き物の生息を困難にします(写真4)。海と陸との食物連鎖や物質循環の輪を断ち切ることにもなりかねません(写真4)。

● 外来植物・内陸性植物の侵入
 道路や建物ができると、その周辺から外来植物が侵入します。また、不安定で海浜植物以外は生育できなかった砂浜も、車が進入して砂地が固められることで、外来植物や内陸性の植物が侵入しやすい環境をつくり出します3),4)。さらに、自然遷移により砂丘の安定化がすすんでいることも、外来植物や内陸性植物の侵入が進む一つの要因です5),6)。
 侵入した外来植物を除去するためには、他の海浜植物を痛めないよう人の力で掘り起こしたり刈り取ること(石狩海岸)、牛や羊の放牧(ワッカ原生花園、小清水原生花園など)7)や、海浜植物の高い再生能力を頼りに火入れ(小清水原生花園)8)などが行われています。 
 
RV車などが砂丘を走るとどのような影響がありますか? その対策は?

 近年、砂浜にRV車(Recreational Vehicle)やオフロードバイクなどが過剰に乗り入れるようになりました。石狩の砂丘帯において、過去と現在の車両走行跡の路線延長を比較すると、1996年は1961年の6倍以上に増えており、網目状の裸地が急増しています。もとの植生に復元するには、通行防止柵の設置が有効で、風による極度の浸食を受ける所には流木などを置くだけでも大きな効果があります。

キーワード 車両の乗り入れ、車両走行跡、空中写真、車両進入防止柵、流木

図1 走行跡の変化


写真1 新川河口部周辺の空中写真

解説
● 空中写真を用いた海岸環境調査
 空中写真は国土地理院や国土交通省のwebサイトから一部公開されています1)。空中写真により過去から現在までの地形変化、植生変化、利用形態の変化などの環境変化を客観的に把握することができます(写真1)。GIS(地理情報システム)はこのような判読作業を支援するツールとしても有用です。

● 車両走行跡の近年の変化
  GISを用いて、1961、1976、1985、1996年の空中写真から、小樽市銭函から石狩市石狩灯台付近までの砂丘帯に見られる車両の走行跡を抽出し、その路線長を年代別に集計しました(図1)。1961年の調査対象域に見られる路線長は8.7kmでしたが、1996年には68.2kmの走行跡が確認され、6〜7倍に増加しました。また近年にかけて、道路の分岐点から分岐点までの距離が短くなる傾向があり、道路が網目のようになっています(写真1)。かつての生活用道路から、近年の車両乗り入れによるレジャー型道路の増加へと、利用形態が変化していることも分かります。このような砂丘帯の荒廃は、放っておけば、さらに進行することが懸念されます。

写真2 車両進入防止柵


漂着流木により試作した防風柵

● 侵入防止柵と流木等による防風柵の効果
 無秩序に走行する車両から砂丘の荒廃を防ぐには、まず侵入防止柵を設置することが必要です(写真2)。石狩浜では、柵設置によって植生の被覆面積の増加が認められています2)。ハマボウフウなど種子で分布を広げる植物の回復は遅いのですが、地下茎で分布を広げるハマニンニクやハマヒルガオなどは3年ぐらいで裸地を覆ってしまいます3)。しかし、柵を設置しても風による浸食が進む所では、砂丘自体の崩壊がさらに進んでしまいます。このような所では防風柵の設置が有効です4)5)。自然景観を損なわず、手軽な方法として、海岸に漂着した流木の利用が考えられます(写真3)。高さ1.2mの柵では、風下側2.5m以上の地表部まで風速が半減していました(図2)。走行跡の裸地に流木を横たえるだけでも、飛砂防止の効果は高いと考えられます。
 
海浜地域には、どのような外来植物がみられますか?

 近年、牧草や荒れ地植物のブタナ、メマツヨイグサ、オオアワダチソウなど様々な外来植物が、海浜草原にみられるようになりました。また、内陸草原性の植物であるススキやチャシバスゲなどが群生するところもあります。これらの植物は、分布を急速に広げるものもあり、海岸草原の景観をすっかり変えてしまいます。

キーワード 牧草、荒れ地植物、内陸草原性植物、土壌化、砂丘の安定化

表1 石狩海岸及び幌延町浜里海岸で確認された外来植物


写真1 幌延町浜里海岸の砂利
採取跡地に群生するブタナ


図2 ハマナスの生育状況の比較

解説
● 海浜でみられる外来植物
 海岸草原では、在来の海浜植物と混じってカモガヤ(オーチャードグラス)、ナガハグサ(ケンタッキーブルーグラス)などイネ科の牧草が生育しています。小清水原生花園では、牧草の著しい侵入とハマナスやエゾスカシユリなど花の美しい海浜植物の衰退が問題になり、火入れによる復元が試みられています1)。海岸草原には、牧草以外の外来植物もみられます。浜頓別町ベニヤ原生花園周辺では、ブタナが分布を広げています。石狩浜では38種もの外来植物が確認され(表1)、さらに、在来植物ではあっても内陸草原性のススキやチャシバスゲが急激に増加しています6)。また、幌延町浜里では、砂利採取によって裸地になった場所に、20種の外来植物が生育し(表1)、ブタナやフランスギク、ヒメスイバが大群落を作っています(写真1)。外来植物の多くは、人為的に作られた裸地などに侵入し分布を広げる荒れ地植物です。

● 生育環境
 外来植物は、砂の動きが少ない安定した場所に多くみられます。ブタナは、同じ立地に生育する海浜植物のハマハタザオと比較して、砂の堆積に対する適応性が低いことがわかっています7)。一方、地際にロゼット葉を広げ、砂を安定させて発芽や生長に適した環境を自ら作っているのではないかとも考えられています7)。砂に腐植が堆積し、土壌化の進んだところでは、牧草をはじめ内陸性の植物が優勢になります8)。石狩浜では、外来植物や内陸草原性の植物が内陸側から海側へと分布を広げており、砂丘の土壌化と安定化が進行していることや6)、RV車の走行による土壌の硬化の影響が指摘されています9)。

● 海浜植物との競合
 外来植物が増えると、海浜植物にどのような影響があるでしょうか。牧草やススキが侵入することによって、海浜植物は被陰され、十分な光を得られなくなります(図1)。牧草の生育密度が高くなると、地表に大量の枯れ葉が堆積して地中の温度の上昇を妨げます9)。枯れ葉が分解して土壌の肥沃化がすすみ、海浜植物以外の植物の侵入を促進します9)。さらに、地下20cmほどの深さまで密な根の層が形成されるため、地下茎で分布を広げるハマナスは、地下茎の生育が妨げられ、更新ができなくなります(図2)9)。虫媒花植物にとって、花粉を運んでくれる大切なパートナーである昆虫が、大量に花を咲かせる外来植物に奪われ、両者の関係が崩れてしまうかもしれません。
 
植生図は、どのようにして作るのですか?

 植生図は、空中写真をもとに線を描いて植生タイプを区分したり、衛星写真のスペクトルから得たインデックスによって自動的に分類して作成します。

キーワード 植生図、植生タイプ、空中写真、衛星写真、ASTER

解説
 海岸の植生を地域レベルで把握するには、植生図が役立ちます。環境省発行の縮尺5万分の1の植生図が全国規模でそろっていますが、調査年の違う植生図や小縮尺の詳細な植生図などが必要な場合は、新たに作る必要があります。空中写真を用いて作図する方法と、衛星写真を用いて作る方法を紹介します。



図1 現存植生図と空中写真


● 空中写真による方法
 海岸地域の空中写真を、立体視できる実体鏡でみると、砂丘の起伏や、海岸草原の植生タイプによって異なる色調、海岸林の樹種によって特徴のある樹冠の盛り上がりや色調などが識別できます。このような相観的な差異に基づいて植生を細分し、空中写真をベースにした植生判読図を作成します。現地調査で植生タイプを分類し、植生判読図をさらに細かく分けたり、修正を行ったりします。これをもとに、手書きの植生原図を作成し、さらに作画ソフトを用いて境界線を描き、植生タイプ毎に塗り分け、植生図を完成させます。
 図1は、空中写真(HO-94-7X C7-2)をもとに作成した幌延町浜里地区の現存植生図1)です。この図から植生の配置をみると、海岸から内陸に向かって帯状に各植生群落が配列し、平坦な砂利採取跡地には、広い範囲で帰化植物のヒメスイバ、ブタナ群落が分布することがわかります。
 空中写真を用いる方法は、比較的安価であり、狭い地域で精度の高い植生図を作成するのに向いています。また、戦後の数年毎の写真が入手できるので、植生の変化を比較するのに便利です。一方、植生タイプの違いを線を描いて区分するので、統一した基準を設けにくい欠点があります。



図2 衛星写真による海岸地域の
植生図の例

● 衛星写真による方法
 ここでは、NASA地球観測衛星Terraに搭載されているASTER(資源探査用将来型センサ)を用いた方法を紹介します。ASTERは、通商産業省(現経済産業省)が開発したシステムで、画像の解像度が比較的高い(地上分解能15m)、14バンドとバンド数が多い、入手コストが安いといった利点があり、環境モニタリングの分野で利用、研究が進められています2)。
 現地調査では、各植生タイプの植物の現存量を調べ、現存量から植生タイプが推測できることを確かめました3)。そこで、ASTERのバンドから得られたインデックスのうち、植物の現存量と最も相関が高かったLAI(葉面積指数)を使って画像を分類しました。
 図2は、2002年6月30日撮影のASTERデータを用いて作成した植生図です。GIS(地理情報システム)のソフトウェアを用いて、まずおおまかにLAIの値によって画像分類を行い、一部の地域を抽出して現地調査による植生タイプの分類と合うように、境界値の修正や色分けを行いました。
 海岸部に見られる赤〜オレンジ色で示した地域は、現存量が48.6〜120.4g/uで、LAIが比較的小さく(0.1〜0.90)、海岸線に近いハマニガナ−ハマニンニク群落と、海岸草原の内陸側に広く分布する砂利採取跡地に対応しています。砂利採取跡地は主にヒメスイバ、ブタナなど外来種の優占する群落に一致します。LAI値が0.91〜1.34の地域は、植物の現存量が概ね120〜200g/u程度の地域です。イネ科草本が優占し、牧草地やススキの群生地であることが多く、湿原や砂丘林内に見られるヨシやイワノガリヤス、ヌマガヤなどのイネ科草本も含まれています。
 黄〜緑色系で配色した部分はLAI値が1.34を越え、現存量は200g/uを越えます。ササやハマナスを含む海岸草原の多くと森林を含みます。ただし、針葉樹林はLAIが過小評価され、比較的ササの多い海岸草原に近い値を示すようです。
 衛星写真を利用すると、広い地域を、統一した方法で、速く、作成できるという利点があります。現在では空中写真と比べると高価ですが、分解能や識別力がさらに向上すれば、広く活用されることが期待されます。ただし、必要な情報が正確に把握できているか、現地調査が不可欠なことは言うまでもありません。
 
海浜植生の帯状構造や生態は、どのように調べるのですか?

 海浜植生の帯状構造を調べるためには、海から内陸に向かってライン上に調査区を設定するライントランセクト法を用いて、植生調査を行います。また、海浜植生の開花フェノロジーや訪花昆虫の季節的な変化を把握するためには、同じ場所、同じ方法で定期的に観察を行います。

キーワード ライントランセクト法、植生調査、開花フェノロジー、訪花昆虫

図1 ライントランセクト法

表1 全推定法による被度・群度

写真1 植生調査区

図2 石狩浜の主な植物の花暦

解説
● 植生の帯状構造の調査
 一般に海浜植生は、立地環境の変化に伴い、海から内陸に向かって帯状構造が発達しています。帯状構造を把握するためには、海から内陸に向かうライン上に植生調査区を設定する、ライントランセクト法によって植生調査を行います(図1)。調査区は、相観的に植生の違いを把握し、それぞれの植生の典型的な場所を選んで設定します。同じ植生タイプに、2カ所以上の調査区を設定しましょう。調査区のサイズは、海浜植生は1m×1mあるいは、2m×2mが適当です(写真1)。海岸林では、樹高に応じて5m×5m程度の調査区を設定します。植生調査は、出現種名を記録し、種毎にブラウン・ブランケの全推定法による被度(優占度)・群度(散生・群生など生育状態)(表1)、および最大自然高を記録するのが一般的です。

● 開花フェノロジーの調査
 いつ、何の花が咲くのか、海浜植物の開花の季節的な変化(開花フェノロジー)を調べ、花暦を作ることができます(図2)。全ての植生タイプを通るように調査ラインを設定し、あるいは、植生毎に調査区を設定して、いつも同じ場所を観察するようにしましょう。観察は、1週間〜10日間隔で定期的に行います。開花状況は、調査区内で開花している種名を記録し、種毎に開花個体数および個体あたりの開花数や開花の割合を調べます。この調査を数年続けることによって、開花の年変動を知ることもできます。

● 訪花昆虫の観察
 訪花昆虫の行動は、天気の影響を大きく受けます。観察は、晴れないし曇りの、風のない穏やかな日が最適です。開花フェノロジーの調査と同じように、全ての植生タイプで観察できるよう調査ラインか調査区を設定し、決められた時間帯(午前中から昼過ぎにかけて3時間以上連続観察が望ましい)に、訪花された植物と昆虫の種類を記録します。月に一回程度観察を行うと、季節的な変化を把握することができます。昆虫の同定を行うために、必要に応じて昆虫を捕獲し、標本を作製します。昆虫の同定は、専門家に依頼しましょう。
 
海浜植物の結実特性は、どのように調べるのですか?

 海浜植物の果実や種子の実り具合を数年間継続して調べると、種の平均的な種子生産量やその年変動を把握できます。また、受粉特性を明らかにするためには、袋掛け実験や人工受粉実験を行い、結実率を調べます。

キーワード 訪花昆虫、結実率、袋掛け実験、人工受粉実験

人工授粉の方法


袋掛け及び人工授粉実験のイメージ

解説
 海浜植物は、どのくらい果実や種子を実らせるのでしょうか、また何が実り具合に影響を与えているのでしょうか。

● 果実や種子生産量の把握
 あらかじめ花の数を調べておき、実った果実の数と比較すると、その年のおおよその実り具合がわかります。また、花には種子のもとになる胚珠があり、胚珠数に対する実った種子数の割合を結実率と呼びます(図1)。果実が実ったら、種子になれなかった胚珠(あるいは胚珠の跡)の数と種子を数えて結実率を求めます。花によって果実や種子の実り方は異なるので、全体の傾向を知るために、いろいろな個体から少なくとも20花について調べて平均値を求めましょう。このような調査を数年間継続調査することによって、果実や種子の生産量の年変動を知ることができます。

● 受粉に対する昆虫の役割を調べる ─袋掛け実験
 袋掛け実験は、開く直前の花をネットで覆い、昆虫に訪花させないようにして、結実率を自然状態のもの(コントロール)と比べます(写真1及び2)。受粉に昆虫の助けを必要とする植物は、ネットをかけると種子はできません。逆に、ネットをかけても種子ができる植物は、自分の花粉で受粉させる(自動的自家受粉)仕組みを持っている植物です。

● さらに詳しく受粉特性を調べる ─人工受粉実験
 人工受粉実験を行うことによって、受粉特性を詳しく調べることができます。同じ花の花粉を雌しべにつける人工自家受粉を行った花、別の個体から採取した花粉を雌しべにつける人工他家受粉を行った花、そしてなにもしないコントロールの花の結実率を比較します(図2及び3)。自家受粉処理後は、袋掛け実験と同じようにネットをかぶせ、訪花昆虫による他家受粉を防ぎます。また、他家受粉を行う場合は、自動的自家受粉を避けるために、あらかじめ雄しべをとった(除雄)花を用いる場合もあります。実験では、自家受粉で種子ができるのか(自家和合)、他家受粉でなければできないのか(自家不和合)といった花粉の質や、自然状態で十分な花粉が雌しべに運ばれているのか(花粉制限の程度)といった花粉の量について、種子生産に影響する要因を知ることができます。
 
荒廃地において海浜植物の種子をどのように播くとよいでしょうか?

 荒廃した海浜では、海浜植物種子は日射や強い風で乾燥しやすく、土壌も飛散しやすい環境にあります。そのため、種子や芽生えを乾燥害から守り、土壌の飛散を防止するためには、生育が早く、翌年には枯れてしまう他の植物種子と混播するのが良い方法です。

キーワード 海浜植物、種子、乾燥、土壌飛散、日射、強風、混播

図1 樹木種子の重さと
発芽できた深さの関係


遷移促進型混播試験地


図2 海浜植物発芽率

解説
●発芽を阻害する要因
 荒廃した海浜または土砂を埋め戻した海浜は、植物が生育しておらず、露天で吹きさらしの状態となっています。そのため、播きつけた種子および覆土(種子の乾燥や移動、食害を防止して、発芽するために上にかける土)は、強い日射や風が直接当って乾燥しやすく、また細かい土壌が風で飛ばされて種子が裸出して乾燥する場合があります。

●覆土を厚くかけると
 種子の乾燥や裸出を防ぐには、種子にかける覆土を厚くする方法もあります。しかし、小さい種子は覆土が厚くなると発芽は困難です(図1)。そのため種子の乾燥や裸出を防ぐ方法として、種子にかける覆土を厚くする方法は実用的ではありません。

●混播による効果
 強い日射や風を防ぎ、海浜植物種子の乾燥や、播いた場所の土壌飛散を防止する播種方法として、遷移促進型混播法を実行してみました。この遷移促進型混播法は、生育してほしい海浜植物種子とともに、発芽、生育の早い植物種子を混ぜて播く方法です。発芽、生育の早い植物が早期に繁茂することにより、海浜植物の種子や芽生えを強い日射、強風などによる乾燥から守るとともに、播種地の土壌飛散を防止する働きがあります(写真1、2)。今回、混播には暖地用牧草のバヒアグラス種子を使用しました。バヒアグラスは発芽率が高く(購入時75%以上)、初期生長量も大きい(発芽後4ヶ月で25〜42p)特徴を持っていますが、暖地用牧草のため北海道の冬は寒さで越冬できない欠点があります。そのため、春に発芽して生育し、夏から秋にかけて繁茂しても翌年まで株が生き残ることはありません(写真3)。また、発芽して1年目は種子を作らないため、土壌中に埋土種子となって残ることもなく、外来草として散逸することはありません。海浜植物のうち、ハマボウフウ、エゾゼンテイカの発芽率は、遷移促進型混播法は単独で播種した場合に比べて高くなっていました(図2)。これは一緒に播種したバヒアグラスが、海浜植物の種子や芽生えを乾燥害等から守ったと考えられます。ハマナスは混播、単独とも発芽率に差は見られませんでした。この理由としては、ハマナス自体の発芽力が高く、乾燥等に対して抵抗力が高かったためと考えられます。
 なお、各種海浜植物発芽苗の形はS7にありますので参照して下さい。
 
海浜植物は、種子を播くとどのくらいの大きさに育ちますか?

 海浜植物の多くは発芽当年の成長量は小さく、開花することはありません。しかし、発芽翌年は大きく成長し、草本植物の大半は開花、結実します。木本植物は一部の種を除いて発芽翌年に開花することはありませんが、移植苗としては十分な大きさに育ちます。

キーワード 海浜植物、成長量、開花、移植

写真1 ハマハタザオ

表1 種子から発芽後開花に
要する年数

図1 苗畑における海浜植物の発芽

●苗畑における成長
 海浜植物の多くは発芽後の成長は緩慢で、発芽年に採種した親株と同じ大きさに育つ種は少数しかありません(写真1)。発芽翌年は前年に地下部の根系や地下茎がしっかりと形成されるため、成長量は大きくなります。
 発芽2年目の草本植物は、多くの種で親株と同じ大きさに育ち、開花、結実が見られます(表1、図1、写真2)。木本植物も発芽2年目は大きく育ちますが、親株と同じ大きさまで育つ種は少なく、多くの種は開花しません(表1、図1)。木本で発芽2年目に開花するのはナワシロイチゴで、茎の長さは発芽当年に139p、発芽2年目に273pにもなります。
 草本植物の多くは苗畑で2年間育成すれば、荒廃した海浜の植栽に適した大きさの苗を得られます。木本植物は親株と同じ大きさになるにはさらに長年月を必要としますが、荒廃海浜地への移植は大きすぎても取り扱いと活着が困難になります。木本植物の移植に適した大きさに決まった数値はありませんが、古くから樹高は50p程度が良いといわれ12)、施工事例でも高さ30〜50pの苗木が使用されていますが21)、もともと背丈の低い低木類を含めた場合は高さ20p以上の苗木が移植に適しているようです。

●荒廃海浜における成長
 荒廃海浜または荒廃海浜に土砂を埋め戻した場所における海浜植物の成長量は、苗畑に比べると明らかに小さく、発芽翌年の高さは10倍も差があります(図2)。埋め戻し跡地等は、苗畑に比べると土壌中の栄養分が少なく、また土壌が堅くしまっているため根系の発達が阻害されて成長が悪かったと考えられます。埋め戻し跡地等で海浜植物の生育を良好にするには、土壌の膨軟化や施肥が有効と考えられます。また、Q29に示したように地形を作り、塩風の当たり方や土壌固結を変化させるのも効果があります。
 
海浜植物はどのように植栽すると生育しやすいですか?

 荒廃した海浜で植生を復元する場合は、地形に変化をつけると、立地条件、塩風の当たり方が多様になり、それぞれに適した海浜植物の生育が可能となります。

キーワード 海浜植物、立地条件、塩風、地形、盛土

写真1 幌延町の自然砂丘と
海浜植物群落

写真2 砂丘頂部に生育している植物

写真3 砂丘間に生育している植物

写真4,5,6 人工的盛り土

図1 ミズナラ植栽位置別
樹高生長量比

図2 ハマナス植栽位置別
樹高生長量比

写真7 ハマナス埋め戻し平坦地
植栽木

写真8 ハマナス盛土斜面植栽木

図3 植栽後2生育期経過した
草本植物の高さ

解説
● 海浜地の自然地形と植物
 自然海浜には様々な立地条件があります。起伏のある砂丘、広く緩やかな草原地帯、そして地下水位が高い湿地などです。このような各種の立地条件に応じて生育する海浜植物の種類も変化します。また、砂丘地帯でも地形は複雑で、砂丘の頂部、斜面、砂丘間くぼ地では水分条件や風の当たり方に差があり、生育している植物に違いが見られます(写真1、2、3)。
 
● 人為的な地形造成と植物の生育
 海浜の砂採取跡地を埋め戻して平坦にした場所において、人工的に地形に変化をつけるため、埋め戻しに使用した土砂を利用して盛土を作りました。盛土の大きさは、高さ150p、斜面長180p、盛土上平坦地の幅420pとし、海に対して直角に2つ作り、盛土間隔は180pとしました(写真4)。
 盛土に試験植栽した海浜植物は、苗畑で養成した2年生苗を使用し、木本がハマナス、ミズナラの2種、草本植物はノコギリソウ、ツリガネニンジン、エゾニュウ、エゾゼンテイカ、ノハナショウブ、ハマニンニク、ハマヒルガオの7種です。苗は盛土の斜面、盛土上平坦地、盛土間に植栽し(写真5)、対照区として盛土を行っていない開放された埋め戻し平坦地にも植栽しました(写真6)。

●盛土における植物の生育
 木本植物の生育は、植栽時の大きさにばらつきがあったので、もともとの樹高に対する比であらわしました。ミズナラは海側斜面、盛土上平坦地、埋め戻し平坦地で成長が悪く、逆に内陸側斜面、盛土間で成長が良い結果を得ました(図1)。同じような土壌の斜面間、平坦地間でも海からの塩風が当りやすい海側斜面、盛土壌平坦地、埋め戻し平坦地で成長が悪く、また、塩風が多く吹付ける越冬時に大きく樹高が下がっていたことから、海からの塩風の当たり方がミズナラの成長に影響を与えていることがわかりました。ハマナスは盛土間、埋め戻し平坦地で成長が悪いものの、他の場所では植栽時の2倍以上に大きく成長していました(図2、写真7、8)。ハマナスは地下茎を発達させて生育する植物のため、湿った土壌の盛土間や土壌が重機で堅く固められた埋め戻し平坦地で成長が悪かったと推察されます。
 草本植物は、植栽時に根と地下茎しかなかったので、草高で示しました。ノコギリソウ、ツリガネニンジン、エゾニュウ、ハマニンニクは斜面、盛土上などの土壌が比較的柔らかい場所で大きく生育していました(図3)。しかし、湿った土壌の盛土間ではハマニンニク以外の種は成長が悪く、土壌が堅く締められた埋め戻し平坦地では、多くのの種で草丈が低くなっていました。エゾゼンテイカやノハナショウブは盛土斜面や上で草高は低かったものの、盛土間では高く育っていました。エゾゼンテイカやノハナショウブは他の種と異なり、湿った土地にも自生しているため、盛土間での生育が良かったと考えられます。
 これらの結果から、荒廃した海浜地で海浜植物を良好に生育させるためには、盛土など人為的に地形を作ってやることにより、土壌の堅さ、水分条件、塩風の当たり方に変化をつけてやることが重要といえます。
 
海浜植物をブロック状に採取すると地下茎はどれくらい伸びますか?

 海浜植物の地下茎を含む土壌をブロック状に採取して苗畑に移植した場合、移植した年(1生育期)にハマニンニク地下茎は約50〜120p、その他の地下茎も20または30p以上伸長します。また、土壌ブロックを複数個並べると、1個ずつ移植する場合に比べて地下茎の伸長量は約2倍となります。

キーワード ハマニンニク、地下茎、伸長量、土壌ブロック、土壌の硬さ

写真1 苗畑に移植後5ヶ月経過した
ハマニンニクの地下茎

写真2 苗畑に移植後5ヶ月経過した
ヒロハクサフジの地下茎

図1 苗畑に移植したハマニンニク
地下茎の伸長量

写真3 苗畑に連結で移植して
2年2ヶ月経過した土壌ブロック

写真4 発芽後2.5ヶ月経過した
外来植物

写真5 平坦地に移植して2年2ヶ月後のハマニンニク

解説
● 苗畑移植試験
 海浜荒廃地(土砂採取跡地)から、海浜植物の地下茎を含む土壌を、縦、横とも30p、厚さは植物によって異なるが30cm前後の大きさでブロック状に採取して、苗畑に1個ずつ移植し、地下茎の伸長量を調査してみました。移植後5ヶ月(1生育期)経過した地下茎の伸張量は、ハマニンニクでは45〜121p(写真1)、チャシバスゲでは18〜56p、ヒロハクサフジでは30〜80pでした(写真2)。
 また、ハマニンニクでは、採取した土壌ブロックを苗畑に1個ずつ(単一ブロック)移植する場合に比べて、十字型に5個(連結ブロック)並べると地下茎は2倍以上の長さ伸びていました(図1)。この傾向は移植後2年2ヶ月(3生育期)経過しても同様で、地下茎の伸長量は、単一ブロック178〜265p、連結ブロックは432〜480pとなっていました(図1、写真3)。土壌ブロックを十字型に並べて移植した方が地下茎の伸長量が大きかった理由としては、ブロックが多数並べられて裸地が被覆され、日射や風による地表面近くの土壌乾燥が防止されたため、地下茎の伸長が促進されたと考えられます。

● 海浜荒廃地移植試験
 海浜荒廃地に土砂を埋め戻した場所において、埋め戻し土砂を盛土状に成形した斜面と、重機で平坦に転圧した場所にハマニンニクの地下茎を含む土壌ブロックを1個ずつ移植しました。移植から2年2ヶ月(3生育期)経過したときのハマニンニクの苗高は、盛土斜面や盛土間で82〜93pに対し、平坦地は58pしかありませんでした。地下茎の伸長量も、盛土斜面は約50pでしたが、平坦地は20p未満で、地上部の稈数も盛土斜面に比べると平坦地は少なくなっていました(写真4、5)。
 ハマニンニクの成長が平坦地で悪かった理由としては、盛土斜面に比べて埋め戻し平坦地は土壌が堅いことが影響していると考えられました。堅い土壌ではハマニンニク地下茎の発達が阻害され、そのためにハマニンニクの成長が悪くなったと考えられます。

 
土砂埋め戻し地の植生はどのように変化しますか?

 埋め戻し地の植生は埋め戻し土砂搬入後2年目から外来植物が侵入、繁茂します。埋め戻し地が平坦で撹乱が少ない場合は、海浜植物やその他の自生植物が増加して海浜植生が復元するのは難しくなります。海浜植物の復元には人工的に地形を作ってそれぞれの植物が生育しやすい立地条件を作ることが望まれます。

キーワード 埋め戻し、植生、外来植物、海浜植物、自生種、開発

写真1 埋め戻し地土砂搬入1年後

写真2 埋め戻し地土砂搬入2年後

図1 土砂埋め戻し地の植生変化

写真3 開発されて放置された
場所の植生

写真4 発芽後2.5ヶ月経過した
外来植物

写真5 発芽後4ヶ月経過した
エゾゼンテイカ

● 土砂埋め戻し地の植生
 海浜で砂利採取、その他の開発等によって植生が破壊された場所に元の植生を復元するには、開発によって出来た穴地形等を元の地形に戻してから植生を復元することとなります。しかし、土砂を搬入して穴を塞ぎ、平坦にしただけでは、目的とする植生はなかなか復元しません。土砂を搬入地は、搬入時と搬入1年後は植物がない状態です(写真1)が、土砂搬入2年後からは急速に外来植物が繁茂し、海浜地区に特有の植物や在来の自生植物はほとんど生育しない状態となります(写真2)。土砂搬入4年後でも外来植物が多く、海浜植物は非常に少ない状態が続きます(図1)。このことから、単に土砂を搬入して穴を塞ぎ、平坦地を作っても海浜植生の復元は難しいといえます。

● 外来植物が繁茂している理由
 土砂搬入地で外来植物が繁茂している理由としては、種子の供給条件と苗の初期生長量、そして立地条件が大きく影響しています。種子の供給源としては、外来植物は植生復元予定地周辺にたくさんあります。植生復元を予定している海浜の開発地は、あるときだけ単年度で開発された場所は少なく、長い期間かけて開発あるいは放置された場所が多数あります。そのため、海浜植生復元予定地あるいは周辺には、すでに多くの外来植物が侵入、繁茂しており(写真3)、これらから大量の種子が海浜植生復元予定地に供給されます。これに対して、海浜植物やその他の自生植物は開発行為によって絶滅しており、植生復元予定地に種子が供給されません。また、外来植物は初期生長量も海浜植物に比べて大きく、繁茂しやすい生育特性を持っています。土壌条件のよい苗畑で調査した結果、外来植物は発芽後2.5ヶ月で20〜40pの高さに成長するのに対し、海浜植生は発芽後4ヶ月経過しても高さは2〜14pしかありません(写真4、5)。そのため、同一の条件で生育しても外来植物の方が繁茂してしまう結果となります。

● 土砂埋め戻し地の海浜植生復元は
 開発等によって広い面積で海浜植生が失われた場所では、自然に海浜植生が復元するのが困難な事から、Q29に示したように海浜植物の生育に適した地形を作り、苗の植栽、種子播き等、積極的な導入が必要となってきます。
 
塩風に強い樹種は何でしょうか?

 北海道に自生している樹種で最も塩風で枯れにくいのはハマナスで、次いで枯れにくい樹種としてカシワ、耐塩風性ミズナラ、トドマツがあります。これらの樹木の後方や砂丘の陰ではヤマグワ、マユミ、キンギンボク等も生育しています。

キーワード 海岸、塩風、耐塩風性、樹種、産地

写真1 塩風に対する各樹種耐性の違い

写真2 海岸に植栽したミズナラの成長

表1 樹種別塩風に対する耐性と
生育特性

解説
● 樹種で異なる塩風の耐性
 樹木は、樹種によって塩風に対する耐性に差があり、海岸の同じ場所に生育していても、上半分あるいは片側半分が枯れる激害が発生する樹種もあれば、ほとんど枝が枯れない樹種もあります(写真1)。また、これらの樹木の後方や砂丘の陰で生育しやすい樹種もあります。そのため、海岸ではひとつの種で群落(海岸林)を作る樹種もあれば、他の樹種と混交して生育している樹種もあります(表1)。
 地形や植生が失われた荒廃海浜に樹木を植栽する場合は、もともと生育していた樹種というだけで植えるのではなく、塩風に対する各樹種の耐性、生育形態を考慮して植栽方法、植栽位置を決める必要があります(Q29)。

● 塩風に強い樹種、弱い樹種の生育特性
 塩風に特に強い樹種であるハマナスは最も海に近い場所に生育していますが、強風で飛んでくる砂粒で枝や葉に傷がつくと枯れることがあります。また、地下茎が発達して群落を形成するので、岩場や堅い土壌、地下水位が高い場所は生育に不適です。
 カシワ等塩風に強い樹種は、単独あるいは他の樹種と混交して海岸に林を作っています。
 イタヤカエデなど塩風にやや強い樹種は、塩風に強い樹種と混交林を形成する場合がよくあります。混交した林だけでなく、単独で群落を作る場合もありますが、地形的に陰になった場所を好みます。
 イヌエンジュ等塩風にやや弱い樹種は、海岸において単独で林を作ることはありませんが、塩風に強い樹種で構成された林の中や陰に生育しています。
 シラカンバ等塩風に弱い樹種は、海岸では塩風に強い樹種と混交することも少なく、海岸からかなり離れた内陸に入って飛来塩分量が少なくなる場所に生育しています。

● 産地で異なる塩風の耐性
塩風に強い樹種も産地によっては塩風に弱い場合があります。特に内陸で代々生育し、塩風による選択を受けていない系統は塩風に弱く、海岸産に比べて塩風で枯れやすい性質があります(写真2)。現在、産地間で塩風によって枯れやすい産地、枯れにくい産地が明らかとなっている樹種は、カシワ、ミズナラ、イタヤカエデ、ナナカマドがあります。
 
海岸の鳥類を保全するにはどのような鳥に注目すればよいでしょうか?

 生態系全体を保全する必要があるため、可能な限り、生息しているまたは生息していた種全部を対象にします。なかでも、レッドリスト掲載種、アンブレラ種、キーストーン種、指標種、地域個体群、既存のモニタリングデータから減少が予測されている種などが重要です。

キーワード 鳥類の保全、生態系、レッドリスト、アンブレラ種、指標種
表1 北海道レッドリスト記載種(鳥類)




図1 海岸草原の生態ピラミッド

解説
● 保全対象は生態系
 生物はさまざまな生物や環境とつながりをもち、生態系の一員として生息しているので、保全や復元の対象となるのは生態系そのものです。ただし、現実的には、生態系のすべての構成員に注意を向けて保全や復元を行うのは困難であることが多いので、いくつかの種に注目して保全や復元を進めることが多くなります。ただし、単一種のみに注目するのではなく、これらの種を何種か組み合わせて保全することが重要です。例えば、日本海側北部海浜域に生息する鳥を例として、以下に示すような種は生態系指標となります。

● レッドリスト掲載種
 北海道では、北海道内に生息する野生生物を対象として、絶滅のおそれのある種などを選定し、北海道レッドデータブック2001リストとして公開しています(表1)。また、国レベルでは環境省のレッドリストがあります。オジロワシ、チュウヒ、シマアオジなどがリストに掲載されています。

● アンブレラ種
 広い生息地を必要とする種は、この種の保全を行うことで同じ区域内に生息する他種の生息も維持されます。生態ピラミッド(図1)の上部に位置する猛禽類や大型哺乳類がこれにあたります。例えば、海岸草原ではチュウヒがアンブレラ種に相当します。

● キーストーン種
 その種の存在が生息している群集に強い影響を与えていると考えられる種のことです。実際にどの種がキーストーン種にあたるかを判定するのは難しいとされています。例えば、植物の種子分散に影響を与えている鳥などがこれにあたるかもしれません。

● 指標種
 ある環境を特徴づける種のことです。その種の生息環境に注目して保全対策を実行することにより、同じ環境に生息する多くの生き物を保全できると考えられます。例えば、海岸草原ではシマセンニュウやホオアカ、裸地に近い場所ではヒバリ、低木林ではエゾセンニュウなどが当てはまるでしょう。

● 地域個体群
 日本の生物相は津軽海峡を挟んで大きな変異があります。そのため、日本では北海道のみ生息する生物がたくさんいます。これらの多くは大陸との共通種ですが、地域個体群としては別の系統を持っているものが多いと考えられます。現在、地域個体群の保全も重要な項目です。例えば、シマセンニュウ、ノゴマなどは日本ではほぼ北海道だけで繁殖しています。

● モニタリングデータから減少傾向を示している種
 たくさんの個体が生息している種においても、全体的な傾向として個体数が減っている種や分布が小さくなっている種が存在します。そのような事実は、継続的なモニタリング調査によって判明します。環境省の全国的な調査では、シマアオジ、ヒバリ、ホオアカ、カッコウなどの鳥が減少傾向にあることが示されています。
 
海岸はどこが管理し、どのような規制が設けられていますか?

 日本の海岸線の多くは国有海浜地で、利用や保全の目的によって所管官庁や管理者が異なっています。海岸法や自然公園法、地方自治体の条例などに基づき、工作物の設置や土石、植物の採取などに規制が設けられています。

キーワード 海岸法、公共海岸、海岸保全区域、自然公園法、特別保護地区、特別地域

図1 海岸地域の管理区分の例


図2 国立公園における地域区分の例

解説
● 海岸法などに基づく管理
 海岸を管理するための基本的な法律が海岸法1)です。1999年の改正によって、目的規定に、「被害からの海岸の防護」に加え、「海岸環境の整備と保全」および「公衆の海岸の適正な利用」が位置づけられました。防災面だけでなく、近年の海岸侵食の進行や、海岸環境への認識の高まり、海洋レクリエーション需要の増大などに応えたものです。新しい海岸法では、砂浜が、保全の対象であると同時に、高波のエネルギーを減衰させる海岸保全施設とみなされています。
 日本の海岸線約35,000kmのうち8割が国有海浜地などの公共海岸です。公共海岸は、海岸保全区域と一般公共海岸区域に分けられ、延長距離はともに約14,000kmです。海岸保全区域は、漁場管理、国土を守るための海岸管理、漁港や港湾の管理、航路や海上交通の管理など、管轄区域や対象行為ごとにわけられ、国土交通省河川局、農林水産省水産庁、農林水産省農村振興局などが所管しています。一般公共海岸区域は、国土交通省河川局が所管しています。公共海岸の実際の管理は、地方自治体などが行っています。
 海岸保全区域で、工作物を新設又は改築したり、土地の盛土などをするときや、海岸保全区域内の国有地に工作物を設けて土地を占用する場合は、許可を受けることが必要です。また、一般公共海岸区域内で、工作物を設けて土地を占用する場合も許可が必要です。
 図1は、石狩海岸(石狩市側)の管轄区域図です。石狩市では、河川区域の一部を、管理者である北海道開発局長より占有許可を受けて、「はまなすの丘公園」と「海浜植物等保護地区」に指定し、条例によって植物の採取や車両の乗り入れなどを禁止しています。その結果、ハマナスやハマボウフウ、イソスミレの群生地が維持されています。また、石狩市が管理する港湾隣接区域と北海道が管理する海岸保全区域でも、車両の立ち入りを防ぐために柵が設置されています。さらに内陸側の海岸林は防風保安林に指定されており、その大部分を占める国有林は農林水産省林野庁が管理しています。

● 自然公園法に基づく管理
 国立公園と国定公園の地域では、自然公園法2)により、特別保護地区、第1種〜第3種特別地域及び普通地域に区分されています。同様に、道立自然公園でも、第1種〜第3種特別地域と普通地域に区分されています。
「特別保護地区」では、動植物の捕獲、採取、放出、植栽やたき火などを含め、現状に変更を及ぼす行為が規制されており、「特別地域」では工作物の設置、指定植物の採取などの一定の行為について規制が設けられています。普通地域では、土地の形状変更や、工作物の設置、広告の掲示などの一定の基準を超えるものについては届出が必要です。
 図2は、利尻礼文サロベツ国立公園に属する幌延町浜里地区周辺の公園計画図です。海域は普通地域、海岸は第1種特別地域に指定されています。道路から内陸部の砂利採取跡地や風力発電装置設置場所は、帯状に公園区域外となっています。この地域は、海浜景観を復元するために、土砂を埋め戻す事業が進められています。さらに内陸部の砂丘林や湿原は、自然景観がすぐれ、主に特別保護地区や第1種特別地域に指定されています。
 
海岸について人々はどのようなイメージや意識をもっていますか?

 多くの人々が余暇活動で海岸に接し、海岸に親しみを持っています。近年、海岸地域に対して、「海洋環境の悪化」、「生態系の破壊」、「景観の悪化」などを感じる人々が多くなり、こうした問題への対処が急がれます。
 
キーワード 環境、生態系、景観、利用目的、地域住民

写真1 海水浴客でにぎわう石狩浜


表1 地域住民の回答
 
解説
● 人々の海岸へのイメージ
 海岸に対して人々はどのようなイメージや意識をもっているのでしょうか。国土交通省のアンケート調査「我が国の海洋・沿岸域のあり方について」(2005年5月実施)によると、海岸との関わりでは、多くの回答者が海洋性レクリエーション・ドライブ・散歩等で海岸を訪れ、海岸への親しみについては84%の回答者が「親しみを感じる」としていました。また、海岸が抱える問題点については、「海洋環境の悪化(水質・漂着物などのゴミの問題)」、「生態系の破壊」、「海岸浸食・砂浜の消失」、「景観の悪化」が上位を占め、解決するべき課題としても、「海洋環境の保全」、「生態系の保全」、「海岸浸食・砂浜の消失対策」が上位を占めました。
 海岸地域は、これまでは防災などの「安全性」や「利用推進」に関心が寄せられていましたが、近年は「利用」が「海岸の環境」に与える影響に関心が寄せられています。こうしたことを背景に、国では、海岸における防護・環境・利用の調和をめざした総合的視点により海岸整備を進める取り組みを始めています。

● 石狩海岸の景観への人々の意識
 海岸の景観に対するイメージや意識について、ここでは、石狩海岸での調査事例をもとに述べます。
 利用者への聞き取り調査を、1999年の7〜8月に、石狩海岸の環境の異なる4区域(はまなすの丘公園、河口浜、あそびーち石狩、新港浜)で行いました。この調査の結果から、石狩浜の景観評価に関しては、
 ・海岸景観の「好ましさ」と「自然性」の評価の間に高い相関が認められた
 ・特に、自然的な景観が好まれ、人為的影響(自動車の轍[わだち]など)のみられる景観は好ましくないとされていた
 ・高い評価を受けた景観については、利用者間に差がみられなかった
 ・人為的影響の顕著な景観では、来訪目的が異なる利用者間(バギー利用者と自然観察者など)で評価に差がみられた
 ・石狩海岸の問題をより多く認識している利用者は、そうした状況が確認できる景観に厳しい評価をしていた
 ・利用者各人が抱く印象や利用したい場所の景観を好む傾向がみられた
といった点が明らかになり、同じ景観を目にしても、各人が得ている情報や利用目的の違いによって、その認識が異なっており、問題解決には利用者の認識の違いを踏まえたゾーニングや利用による海岸への影響、問題に関する情報提供の重要性が指摘されています。

● 地域住民からみた海岸利用の問題
 海岸の問題では、利用者と共にそこに居住している人たちの意見も重要な意味を持ちます。なぜなら、住民は現地で生じる問題による影響を大きくかつ長期間受け続けるからです。こうした点を考え、石狩海岸周辺に居住している人々を対象にアンケート調査(S9,S17)を実施し、海岸利用に関する問題点と解決策をたずねました(表1)。
 問題点では「砂浜へのゴミの放置」、「砂浜などへの車の乗り入れ」が多く、解決策では「砂浜の管理者が規制や禁止などの措置を講じる」、「管理者・地域住民・砂浜の利用者が一緒に問題解決の方法やルールを考える」、「パトロールやキャンペーンにより訪れる人たちのモラル向上を訴える」が多くなっていました(表―1)。また、解決策では、居住年数が長い住民の方が能動的解決策(パトロール、ルールを一緒に考える)をより多く選択している結果が得られました。
 この調査では、石狩海岸の地域住民は、利用による影響に対し、高い問題意識を持っていることが確認できました。また、このような人たちを「核」とした問題解決の取り組みも期待されます。
 景観や利用の問題は、関係する人々の範囲が広く、人々の当事者意識や連携の強さが、成果に反映しやすいものです。従って、こうした問題の解決に取り組むには、利用者・地域住民・海岸の管理者・専門家などによる検討を行う「横の連絡」のためのシステムづくりが重要になると考えられます。
 
利用者に対する調査を行う目的は何ですか?

 過剰な利用によって地域の自然環境が悪化する場合があります。利用者を対象とした調査結果は、こうした社会的観点から自然再生事業の計画立案に生かすことができます。定量調査の手法としてはアンケート調査、定性調査の手法としてはヒアリング等があります。アンケート調査には比較的少ないコストで短時間に多量のデータが得られる利点があります。

キーワード 過剰利用、景観、定量調査、定性調査、アンケート調査、ヒアリング

図1 社会調査の分類


表1 アンケート調査の種類と性質

解説
● 人々の利用による環境への影響
 人々の利用が環境に与える影響の中では、過剰利用(オーバーユース)が問題視されています。過剰利用の影響は、現地の自然環境や利用者のレクリエーション体験に及びます。山岳地域を例にとると、自然環境に対しては、登山者による植生の踏みつけ、土壌の浸食や裸地化、これらが要因となって起こる景観破壊、し尿処理やゴミ投棄などが挙げられます。レクリエーション体験への影響としては、混雑による施設の待ち時間の増加、混雑感のため本来の山が持つ雰囲気を楽しめないといった影響などがあります。
 過剰利用が起こる原因としては、利用者数の増加のほかに、対象地の面的な広がりや施設の不足といった収容力に関する事柄、利用者のモラルの問題、利用がもたらす影響についての人々の理解不足などが考えられ、レクリエーション地域の自然条件だけでなく、社会的な要因も深く関わっていると考えられます。また、こうした影響への対処策としては、施設整備による収容力増大や利用規制といった直接的方法と利用のための情報や利用によってもたらされる影響についての情報提供といった間接的方法があります。

● 利用調査の目的
 人々を対象とした調査研究により、利用によってもたらされる影響を軽減させる方策を、利用者の観点からも検討する必要があると考えられます。なぜなら、高度な技術により現地の自然回復が容易に図られるようになったとしても、適切に利用されなければ、再び同じ事態が繰り返されることになるからです。

● 利用調査の方法
 人々の意識を対象とした社会調査は、データの性質から定量調査と定性調査に大別できます(図1)。定量調査は主に数値によって結果が得られる調査で、アンケート調査がこの典型です。定量調査には統計的に意味を持つデータを得る統計調査と、統計的な意味を要求しないその他の調査があります。定性調査は、主に文章によって結果が得られる調査で、集団や個人へのヒアリング、観察等の手法があります。
 アンケート(調査票)調査とは、共通の調査用紙を使用して、多数の人に回答を求める方法です。アンケート調査の特徴は、比較的少ない予算と手間で短時間に多量のデータが得られるところにあります。一方で、ヒアリングと比べ、詳細な質問ができない、バイアス、つまり回答のゆがみが生じやすいという留意点もあります。バイアスが最小限になる調査の設計を心がけること、ヒアリングを併用して被験者の思考法や本音に迫ることなどが大切です飽戸、1987;栗山、1997)。アンケート調査は、調査法毎に様々な特徴があります(表1)。以下に代表例を紹介します。
1)訪問留め置き調査
 調査員が対象者宅を訪問して質問票の記入を依頼、後日回収する方法。直接訪問して調査の主旨を説明した方が協力が得やすく、時間をかけて調べたり、家族に聞いたりして回答する必要がある調査に適します。実施には個人のプライバシーを侵害しないように配慮する必要があります。
2)郵送調査
 調査票の送付や回収等を郵便で行う調査。広範囲な調査が低コストでできる、比較的多い質問量が可能といった長所、対象者名簿が不可欠、回答ミスが防ぎにくい、対象者本人の回答かを確認できないといった短所があります。
3)来場者調査
 通行人や施設の来場者にその場で短時間の面接、質問票記入等を行う調査。多人数に短時間で調査できるが、対象者から協力を得づらい、煩雑な質問には不向き、調査地点に来なかった人は対象外となるといった短所を考慮する必要があります。後日対象者に記入済みの質問票を郵送してもらう方法、回収箱を設けて回収する方法もあります。
 
海浜植物を守るために私たちは何ができるでしょうか?
 
 動植物を採ったり、植物の上を歩いたり車で走ったりしないといった一人一人の心がけが基本です。さらに、市民、行政、研究機関が協働、連携して、普及啓発、調査研究、保護対策に取り組むことが大切です。

キーワード マナーを守る、協働、普及啓発、調査研究

図1 石狩浜海浜植物保護センター

写真1 小学校の野外学習のようす

図2、3 子ども向けのプログラム

写真4 クラフトあそびをする子供たち

解説
 石狩浜では、海浜植生破壊の危機を感じた住民からの申し出や、住民の率先した保護活動により、行政が対策に乗り出しました。石狩市は、石狩浜海浜植物保護センターという活動の拠点となる施設をつくり、研究機関も加わり、三者の協働のもとに、保護活動が展開されています(図1)。活動は、普及啓発、調査研究、保護対策の三本柱で、市民ボランティア、研究機関、市(行政)が、それぞれに見合った活動を担っています。

●普及啓発活動
 自然観察会や子ども自然教室、小中学校の授業(写真1)などで、海浜植物や生きもののくらしを紹介し、海辺の自然に親しみ大切にする心を養います。子ども向けのプログラムでは、楽しく学べるよう、クイズやゲームやクラフト遊びなどを用います(図2、 3、写真4)。また、これらの活動をサポートするボランティア育成のための講座等を開催します。

写真2 ボランティアによる開花状況調査

写真3 ハマナス群落内に繁った
ススキを除去するボランティア

● 調査研究
 海浜植生を回復させるために、海浜植物の発芽生育特性を調べたり移植試験に取り組みます。また、植生回復や遷移の状態を把握するためのモニタリング調査や、動植物の生息生育状況や開花状況を把握するための調査に取り組みます(写真2)。

●対策・施策
車の乗り入れや植物の採取を防ぐために、条例により保護区を指定したり、車乗り入れ防止柵を設置するなどの対策を行います。また、市民ボランティアとともに、外来植物や内陸性植物の除去や、海浜植物の裸地への移植などに取り組みます(写真3)。