【第8回】

新年度のスタートですね。気分も新たに気候変動適応策に関する文献を紹介していけたらと思っております。よろしくお願いします。
2014年3月17日、環境省の研究班(代表=三村信男・茨城大学)が、地球温暖化によって、今世紀末の日本では平均気温が20世紀末に比べて最大で6.4度上昇し、年間の洪水被害額は20世紀末の約3倍にあたる最大約6800億円に上るとの報告書を公表しました。(http://mainichi.jp/feature/news/20140317k0000e040105000c.html
当シリーズでも、機会を捉えて研究班の成果の紹介をしていきたいと思いますが、今回は特に洪水への影響の理解を深めるために次の文献をご紹介します。

◆◆◆ 気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ◆◆◆
◇◇◇ 著者:立川康人ほか(2011) 土木学会論文集B1,Vol.67,No.1,P1-15 ◇◇◇


気候変動によって将来の水災害リスクや水資源に対する影響を評価するには、降水量の分析だけでは不十分で河川流量の変化を予測する必要があります。
今回ご紹介する文献では、

【1】日本列島全域を対象として、河川流量が変化する流域を検出(全国分布型流出モデル)
【2】【1】で流量変化が検出された流域を対象として、より詳細な分析(詳細分布型流出モデル) を実施しています。計算はA1Bシナリオ(高度経済成長が続き、全てのエネルギー源のバランスを重視すると想定したシナリオ。本シリーズ第1回参照)に基づく気象庁気象研究所の全球20km格子大気モデル(MRI-AM20km)によって計算されていて、対象期間を以下のとおりとしています。

【期間1】1979年1月-2003年12月の25年間:現在気候実験
【期間2】2015年1月-2039年12月の25年間:近未来気候実験
【期間3】2075年1月-2099年12月の25年間:21世紀末気候実験

【1】の結果の一例として、日本列島全域の100年に1度の確率で起こる年最大時間流量(100年確率最大時間流量)についてみてみましょう。(図11(a))

日本列島全体全域の100年確率年最大時間流量の変化
(現在気候実験に対する21世紀末気候実験の「変化比率」)

『出典:『気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測』P7図11(a)より』


上図は現在気候実験【期間1】に対する21世紀末気候実験【期間3】の100年確率最大時間流量の「変化比率」を表しています。
計算は期間ごとに統計的手法によって100年確率最大時間流量を求めています。
その上で【期間1】に対する【期間3】の100年確率最大時間流量の比率を変化比率として表しています。
例えば【期間1】において100年確率最大時間流量が100、【期間3】における100年確率最大時間流量が150であれば変化比率は「1.5」となります。

この変化比率が高い地域は、現在に比べて100年に1度の確率で起こる年最大時間流量が増加する、つまり洪水のリスクが高まることを意味することになりますが、全体的な特徴としては、北海道、東北地方北部、近畿地方南部、四国地方、九州地方北部で100年確率最大時間流量が大きくなり、東北地方中・南部や北信越地方では小さくなる傾向があるとしています。
なお、この図には、各地域のもともとの洪水リスクの大小が反映されていないので、青い部分より赤い部分で洪水のリスクが高いという意味にはなりませんのでご注意ください。

さらに今回の文献では、【1】の全国分布型流出モデルによって、流量が大きくなる傾向が見られた地域と小さくなる地域に着目して月平均流量などを計算しています。

ここでは、流量が大きくなる傾向があるとされた北海道から石狩川流域(石狩大橋地点)を、小さくなる傾向があるとされた東北地方中・南部から最上川流域(砂超地点)の月平均流量をみてみましょう。(図20(a)(b))

石狩川流域(石狩大橋地点)及び最上川流域(砂超地点)の月平均流量の変化
(出典:『気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測』P10図20(a)(b)より)



なお、図20(a)(b)における石狩川流域(石狩大橋地点)及び最上川流域(砂超地点)の月平均流量の現在気候実験の結果(青の線)と実測値(Observed 1979-2003、水色の線)を比較すると石狩川では融雪期以外はその差が倍程度あり、また最上川でも年間を通して倍程度違います。
本文献では、現在気候実験の計算結果と実際の観測データの違いを取り除く手法を得たとしても、それが将来のデータ補正に適用できる保証はないとして、出力データの補正を行っていません。
そこで図20(a)(b)は、現在気候に対する観測値と計算値の相違(モデルの妥当性)を踏まえながらみてみます。

図20(a)の石狩川流域では21世紀末実験(緑の線)の5月河川流量が減少し、1月から4月の流量が増加して現在気候実験(青の線)で5月に表れていた最大月流量が、近未来気候実験(赤の線)及び21世紀末気候実験(緑の線)では4月に発生し流量も増加するとしています。これは、

・4月の融雪量が増加すること
・4月の降雨量が増加すること(4月の月降水量に変化がない一方で降雪量が減少することから)

が原因としていますが、観測値と計算値には融雪期以外の期間では差があること、観測値が4月よりも5月の方が実際には月平均流量が低いことを考えると、1月から5月の流量予測はなかなか難しいものだと思い知らされます。
もし、融雪期が早まると我々の生活にはどのような影響があるのでしょうか?融雪による流出時期が早まると6~7月のダムへの流入流量が減少します。一方、現状の桂沢ダムなどの多目的ダムの貯水位と確保水位(ダムの水利権水量を確保するために必要な水位)を比較すると、5~7月は確保水位ぎりぎりの運用が行われています。そのため、6月~7月の流入量が減少するとダムの貯水量が減少し、稲作等、営農に必要な流量の確保が困難になることが懸念されます。
(引用:石狩川流域における気候変化に適応した治水・利水対策のあり方について取りまとめP27より)

一方、最上川流域は、現在気候実験(青の線)では4月に表れていた最大月流量が、21世紀末気候実験(緑の線)では4月の河川流量が大きく減少し、1月から3月の流量が増大して明瞭な月流量の変化が見られなくなるとしています。これは、

・すべての月で積雪が減少すること
・21世紀末気候実験(緑の線)においては、3月の月平均気温が降雨と降雪の判断指標となる2℃を超えることから3月までに融雪がほぼ終了すること

が原因としていますが、こちらも観測値と計算値が月平均流量の月変化のパターンはよく対応しているものの、年間を通して2倍程度月平均流量が異なることに留意しながらみていく必要があると思います。

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2014年3月31日、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第38回総会及び第2作業部会第10回会合(於 横浜市)において、IPCC第5次評価報告書第2作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)が承認・公表されるとともに、第2作業部会報告書本体が受諾されました。 (http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/03/1346188.htm

報告書では、干ばつなどによる食糧不足、熱波による死亡や病気に並んで都市部での洪水を懸念しています。ある番組で地球温暖化に向き合うには「グローカル」(グローバルとローカルを組み合わせた造語でグローバルに発想してローカルに行動すること)が大事であると解説していました。
「気候変動文献紹介シリーズ」では主に北海道を対象としたローカルな活動ですが、「グローバル」な視点も忘れず、「グローカル」に洪水などさまざまな気候変動の影響について考えていけたらと思います。

【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jscejhe/67/1/67_1_1/_pdf


【過去の文献紹介】
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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