【第9回】

2014年のゴールデンウィークも終わってしまいましたね。皆さま、いかがお過ごしでしょうか。
これからしばらく祝日がなく、次の連休は海の日の週まで待たねばなりませんが、健康第一で仕事に学業に頑張っていきましょう。

さて、今月の気候変動文献シリーズは、『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書』をご紹介します。
この研究プロジェクトは、環境省の環境研究総合推進費で2010年度から2014年度まで実施されているもので、今回の報告書は2013年度までの4年間の成果をまとめたものです。
地域ごとの影響を予測して適応策を支援することを最終的な目的としており、そのため、12のサブ課題が分担して、

1.日本全国及び地域レベルの気候予測に基づく影響予測と適応策の効果の検討
2.自治体における適応策を推進するための科学的支援
3.アジア太平洋地域における適応策の計画・実施への貢献

に関する研究を実施しています。

水資源、沿岸・防災、生態系、農業、健康といったさまざまな分野から気候変動に対する影響と適応策に関する研究の成果が説明されていますが、今回はサブ課題のひとつ「地球温暖化が日本を含む東アジアの自然植生に及ぼす影響の定量的評価」の中から、ブナの潜在生息域の気候変動に伴う将来予測をみてみましょう。

◆◆◆ S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ◆◆◆
◇◇◇ 著者:三村信男プロジェクトリーダー(茨城大学)他 ◇◇◇


今回ご紹介する文献は、IPCC第5次評価報告書作成に向けて、国立環境研究所などが参画して開発された新しい濃度シナリオであるRCPシナリオに基づいて体系的に日本への気候変動の影響を予測しています。RCPシナリオとは、代表濃度経路(Representative Concentration Pathways)といって大気中の温室効果ガスが放射強制力(★1)の上昇に与える影響の大きさをもとに特徴づけられており、それぞれRCP8.5、RCP6.0、RCP4.5、RCP2.6と呼ばれています。これらのシナリオは、工業化以前と比較して放射強制力が今世紀末にそれぞれ8.5W/m2 、6.0W/m2、4.5W/m2、2.6W/m2上昇するというシナリオに対応していますが、今回の文献ではこのうち、RCP8.5、RCP4.5、RCP2.6について計算しています。

(★1)地上0~11km程度に位置する対流圏の熱収支の変化量。正の値の場合は地表の温暖化を、負の値の場合は地表の寒冷化を意味します。

IPCC第4次評価報告書では、「1750 年以降の人間活動は、世界平均すると温暖化の効果を持ち、その放射強制力は+1.6[+0.6~2.4]W/m2 であるとの結論の信頼性はかなり高い」とされており、ここから放射強制力の数値のおおよそのイメージがつかめるでしょうか。


『出典:全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)IPCC第5次評価報告書特設ページより』

また、気候モデルはそれぞれのRCPに対して気温上昇の予測値が低いものから高いものまで含めるように、次のモデル(GCM:global circulation model)を選択しています。

・MRI-CGCM3.0(気象庁気象研究所)
・MIROC5(東大大気海洋研究所・国立環境研究所・海洋開発研究機構)
・HadGEM2-ES(英国 気象庁ハドレーセンター)
・GFDLCM3(米国 海洋大気庁(NOAA)地球流体力学研究所)

そのため、21世紀末(2081-2100年)における年平均気温変化(日本全国平均)はRCP2.6では1.0-2.8℃、もっとも温暖化の進むRCP8.5では3.5-6.4℃といった幅のある予測になっています。
『根拠:『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書P31表1-1 より』


さて、以上を踏まえて今回はサブ課題のひとつ「地球温暖化が日本を含む東アジアの自然植生に及ぼす影響の定量的評価」の中から、ブナの潜在生息域の気候変動に伴う将来予測をみてみましょう。(図1(5)-1)
ブナは,九州から北海道の冷温帯で優占する落葉広葉樹です。北海道では渡島半島だけに分布し、黒松内はその北限で太平洋側の長万部と日本海側の寿都を結ぶ黒松内低地帯が境界線となっています。 それが、2081~2100年においてはRCP2.6とRCP4.5で道内に広く潜在生育域が拡大する予想となっています。しかし、これは気候要因を含む環境要因から見て分布可能な地域になることを示しただけです。実際に植物が潜在生育域に生育するためには、種子を飛ばすなど自らの能力で移動する必要があり、時間がかかります。ブナの場合、移動速度が100年当たり23km以下と遅いために、分布はほとんど拡大しないと予想しています。

(図1(5)-1). 各気候帯の優占種4種(★2)における現在気候と3つのRCPの将来気候シナリオで予測された潜在生育域.
(★2)ハイマツ:寒帯、シラビソ:亜寒帯、ブナ:冷温帯、アカガシ:暖温帯
『出典:『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書P8 より』


また、ブナについて自然保護区と潜在生育域の現在及び将来の位置を比較し、適応策について検討しています。(図1(5)-2)
3つのRCPとも中部から北海道南部の地域に保護区外の潜在生息域が認められるので、この地域の一部を保護区に変更することによってブナを保護することが1つの適応策になるとしています。

(図1(5)-2)現在気候と3つのRCPの将来気候シナリオで予測されたブナの潜在生育域と自然保護区の比較。
現実的な評価を行うため,ブナの潜在生育域は、実際の分布域内に限定してある。
『出典:『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書P8 より』


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北限のブナ林としては、歌才ブナ林が有名です。黒松内市街地からわずか2キロの場所にある原生林で、樹高約30メートル、幹の太さが直径100センチという巨木の数々は、北限の地にあるという雰囲気を全く感じさせません。
これまで歌才ブナ林は、2度の伐採の危機を乗り越えてきました。1度目は太平洋戦争末期の昭和19年ごろ、戦局は悪化し、国内の物資も極端に不足しているなかで、飛行機のプロペラ材として歌才のブナが伐採されそうになりました。しかし北海道大学館脇操教授が、北限のブナの学術的価値を強硬に訴え計画は中止になりました。
2度目は昭和29年、当時の村が、財政赤字を埋めるために歌才のブナに目をつけ、天然記念物指定解除を働きかけたとき、地元住民の有志が、文化財保護委員会や衆議院議員など関係各所に恒久保存を訴える請願書を送ってこのときも天然記念物指定解除は行われませんでした。
【引用:http://www.kuromatsunai.com/gyousei/buna_plan/northern_limit/utasai.htmlより】
今回ご紹介した図1(5)-1では、RCP8.5のケースだと黒松内町付近が「不確実性を伴う潜在生育域」とされ、つまり気候モデルによっては温暖化が進みすぎて黒松内町付近がブナの生育に適した地域でなくなる予測がされていることを示しています。
気候変動により森林の構成に変化が起こったとき、その変化をそのまま受け入れるのか、適応策により現存する森林を保全するのか判断する場面もあるかと思いますが、このような背景も含めて考えていけたらいいかなと思います。

【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
https://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140317/20140317-3.pdf


【過去の文献紹介】
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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