【第10回】

こんにちは。気持ちのいい季節が北海道にやってきましたね!
今年はエルニーニョ現象の影響で冷夏になるとの予報でしたが、一転、5月29日は上空に暖気が入った影響で、オホーツク管内遠軽町で最高気温が33.7℃に達して、全国の観測地点で今年最も高い気温、遠軽町としては5月の観測史上最高気温を観測しました。札幌は30.0℃を記録。札幌管区気象台によると、札幌で5月に30度以上の「真夏日」となるのは1967年以来、47年ぶりとのことなのだそうです。
「上空に暖気が入った影響」とはいうものの、札幌と函館で5月の月平均気温が観測史上最高となるなど、やっぱり地球温暖化の影響なのかなぁと思われた方も多かったのではないでしょうか?

ところで、札幌などの大都市では、温暖化の影響の他に「ヒートアイランド現象」による気温上昇も指摘されています。都市部の気温がその周辺の郊外部に比べて高温を示す現象のことですが、地球温暖化とヒートアイランド現象の直接的な原因は異なりますので、都市部においては全世界的な温暖化に加えてヒートアイランドの影響が上乗せされた気温上昇が予想されます。
都市部の気温上昇に対する適応策を考えるとき、ヒートアイランドによる気温上昇についても考慮しなければならないわけですが、ヒートアイランドとは実際どのような性質のもので、どのような影響を与えるものなのか、今回は以下の文献で勉強しましょう。

◆◆◆ ヒートアイランド監視報告書(平成22年)~気象庁~ ◆◆◆

国は近年の都市化の進展に伴い顕著となりつつあるヒートアイランド現象に対して対策や取り組みを推進するために、2004年3月に「ヒートアイランド対策大綱」をとりまとめました。これに基づき、気象庁ではヒートアイランド現象に関する調査を実施し2004年度から「ヒートアイランド監視報告」として気象庁ホームページで毎年公表しています。
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/index.html
2004年から2012年までの報告がありますがこのうち、2010年(平成22年)の監視報告では、特に石狩地方とその周辺におけるヒートアイランド現象の調査について記載していますので今回はこれを中心にみていくことにしましょう。

【1】ヒートアイランド現象とはなにか?

ヒートアイランド現象とは「都市がなかったと仮定した場合に観測されるであろう気温に比べ、都市の気温が高い状態」として定義することができます。都市では、草原や森林等のような植生域と比べた場合、以下のような特徴(都市化の影響)があるために、ヒートアイランド現象が発生し、それに伴い風の流れにも変化が生じるとしています。
(参考:ヒートアイランド監視報告 (平成 24 年)P2 ~気象庁~

(1)土地利用(緑地や水面の減少)の影響
水面、草地、水田、森林などは熱を吸収し気温の上昇を抑える働きをするが、都市では地表面がアスファルトやコンクリート等が地表面を覆い、地表面から大気に与えられる熱が多くなる。

(2)建築物(高層化)の影響
コンクリートの建築物は暖まりにくく冷えにくい性質があるため、日中に蓄積した熱を夜間に放出して、気温の低下を抑える。また、建物の存在によって地表面の摩擦が大きくなることで、地表付近の風速が弱まり、地面の熱が上空に運ばれにくくなる。

(3)人工排熱(人間活動で生じる熱)の影響
都市の多様な産業活動や社会活動に伴って排出される熱(人工排熱)の影響は、特に都心部で人口が集中する地域で多く、都市部の局所的な高温の要因と考えられる。

ヒートアイランド現象の概念図
『出典:ヒートアイランド監視報告 (平成 24 年)P2 図1.2 ヒートアイランド現象の概念図 より』




【2】北海道地方の都市における気温等の長期変化傾向

表2.3は北海道の各観測地点(札幌、稚内、旭川、網走、釧路、帯広、室蘭、函館)における気温の長期変化傾向です。札幌の気温には以下の特徴があるために、都市化の影響が現れているとしています。

・札幌の年平均気温の変化率は100年あたり約+2.7℃で、都市化の影響が少ないと考えられる国内17地点平均に比べて大きく、三大都市(東京、名古屋、大阪)における上昇率に近い。
・日最低気温の変化率が顕著に大きく、夏季より冬季の上昇率の方が大きい。
・なかでも1月の日最低気温の上昇率が100年あたり6℃を超えている。(これが6℃を超えるのは東京と札幌のみ)
・北海道の他の地点と比較すると、夏季の最低気温に有意な上昇傾向がみられるのは札幌のみである。

表2.3 北海道地方における気温の上昇率
・統計期間は1931年~2010年まで(稚内は1938年から2010年まで)。比較のため、東京、名古屋、大阪および都市化の影響が少ないと考えられる17地点平均の値をあわせて表示。
・17地点とは、観測データの均質性が長期間維持され、かつ都市化などによる環境の変化が比較的少ない気象観測地点である網走、根室、寿都、山形、石巻、伏木(高岡市)、長野、水戸、飯田、銚子、境、浜田、彦根、宮崎、多度津、名瀬、石垣島のこと。ただし、これらの観測点も都市化の影響が全くないわけではないことに留意。
・※を付した地点(17地点平均は飯田、宮崎)は、統計期間内に庁舎の移転があったため、移転に伴う影響を補正してから算出。
『出典:ヒートアイランド監視報告(平成22年)P11 より』

また、北海道地方のその他の観測地点では、

・1月の気温には上昇傾向が現れているものの、8月の気温には明瞭な傾向が見られないこと。
・北海道などの寒冷地における冬季のヒートアイランドに関しては、積雪の影響や人工排熱の相対的寄与度などが十分に解明されていない

ことから冬季の気温上昇のトレンドだけから都市化の影響と判断することは出来ないとしています。


【3】石狩地方とその周辺における都市化の影響

一般に、晴天においては日射量が多く建築物等が吸収・放出する熱が増加すること、また風が弱い日は、地面付近の熱が風の強い日に比べて留まりやすいことから、顕著なヒートアイランド現象が発生するとされています。
そこで、本文献では、夏季の晴天日における一般的な都市の影響を見るため、2007年~2010年の4年間における7月と8月のうち、札幌管区気象台の観測において(1)降水が前日から当日にかけて無し(2)平均雲量5割以下(3)日照時間7時間以上の条件を満たすすべての22事例について都市気候モデルによるシミュレーションを行い、これらを平均する解析(合成解析)を行っています。(図3.4)
気温については、15時には内陸部の広範囲で27℃以上の高温となっている他、石狩平野でも札幌周辺に内陸部と同程度の高温域が島状に分布し、ヒートアイランドの特徴を呈しています。また、20時には札幌市を中心に周辺より高温域となっています。

図3.4 北海道石狩地方とその周辺における夏季(7,8月)の晴天日22事例について、15時(左)、20時(右)の気温(℃,等値線)と風(矢印)の分布の合成解析結果
『出典:ヒートアイランド監視報告(平成22年)P19 より』


図3.5に、気温と風向・風速について都市がある場合とない場合の差を示しています。ここで、「都市がない場合」とは、都市気候モデルの中で土地利用が都市に分類されている領域をすべて仮想的に草地に置き換え、人工排熱量を0にすることとしています。
「都市がある場合」の人工排熱量としては、「地域メッシュ統計」(総務省)の人口、従業者数データおよび「国土数値情報」(国土交通省)の「土地利用メッシュ」に含まれる幹線交通用地データから推定した値を使用しています。((引用:ヒートアイランド監視報告(平成22年)P2

15時は札幌市から石狩平野の南西部に都市化による昇温域が広がっており、札幌市中心部の最も強いところで2℃程度の昇温となっています。また、苫小牧を中心とする勇払平野や、やや内陸の千歳市にもピークが見られます。20時は昇温域の広がりは小さくなるが、札幌市中心部での昇温量は2.5℃以上と15時に比べ大きくなっています。

図3.5 北海道石狩地方とその周辺における夏季(7,8月)の晴天日22事例について、15時(左)、20時(右)の「都市がある場合」と「都市がない場合」の気温(℃,等値線)と風(矢印)の差の合成解析結果。正の値は「都市がある場合」の気温が高いことを示す。
『出典:ヒートアイランド監視報告(平成22年)P20 より』



図3.2 北海道石狩地方とその周辺における建物用地及び幹線交通用地面積が占める割合(人工被覆率) 国土数値情報土地利用メッシュ(平成18年)(国土交通省国土計画局)を用いて作成。
『出典:ヒートアイランド監視報告(平成22年)P18 より』


これらの都市化による昇温量の分布は、図3.2で示した人工被覆率と良く対応していていますが、風向や風速の変化については、合成解析では際立った特徴が見られないため、南寄りの風、北寄りの風が卓越する個別の事例を取り上げて、さらに都市気候モデルによる解析を行っています。

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今回ご紹介した文献の解析によると、札幌においてはヒートアイランドが起きやすい状況下では、昼で2℃程度、夜では2.5℃程度の昇温効果があるとされました。夏の高温化は熱中症などの健康被害を引き起こし、また、大気汚染の悪化や集中豪雨の頻発との関連が指摘されていますので、夏の高温化の対策が必要になってきます。
ヒートアイランド現象と地球温暖化は直接的な原因は異なりますが、対策面では共通点があります。ヒートアイランド現象の原因の一つとして挙げられる都市における人工排熱は、人間のさまざまな経済活動から排出され、温室効果気体の排出源とも密接に関係しています。そのため、地球温暖化への対策の多くは、都市のヒートアイランド対策にもなり得ますし、逆に屋上・壁面緑化などのヒートアイランド対策は、冷房使用の抑制などを通して温暖化対策としても機能し得ます。 こうした対策の共通性を生かして、効率よく気温上昇を抑制し、快適な札幌の夏を楽しみたいですね。 【参考:http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/27/27-2/qa_27-2-j.htmlより】


【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
http://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/himr/2011/index.html


【過去の文献紹介】
2014年05月08日 【第9回】  S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ~著者:三村信男(2014) ~
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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