【第18回】

6月の北海道。爽やかな気候になり、道内各地では花や新緑が見ごろを迎えています。
高山植物を楽しむために登山もいいですね。特に北海道では、積雪期間が長いので雪解けを心待ちにする方も多いことと思います。
その点では地球温暖化による雪解け時期の早期化はむしろ「吉報」なのかもしれませんが、一方で高山帯は地球温暖化・乾燥化等の環境の変化に極めて脆弱であるため、急速な植生変化により、「お花畑」の減少が懸念されます。

◆◆◆ 山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として ◆◆◆
◇◇◇著者 星野仏方 他 J. Rakuno Gakuen Univ., 35 (1) :47~53 (2010)◇◇◇


今回は大雪山系における雪解けの早期化による高山植物への影響を研究した文献をご紹介します。
大雪山系における雪解けの早期化が土壌乾燥を進行させ、これがチシマザサの分布拡大につながって高山植生は急速に衰退することが危惧されているようなのですが、その影響はどの程度なのでしょうか?

【1】ササはどの程度拡大したか

本文献では、大雪山五色ヶ原をモデル区として、過去の航空写真から、植生判別を行い、植生変動地域を特定しています。
航空写真から植生を判別することは、写真から「これはササ」「これはマツ」と分類するだけですから直感的には簡単なように思えますが実はそうではなく、「オルソ化」といわれる作業をしています。
カメラはレンズの中心点から写真を撮って画像を取得します。したがって、どうしても端の方に行くとひずみが生じます。集合写真のような場合ですと、端ほど細く写ります(下図参照)。

『出典:一般社団法人斜面防災対策技術協会HP より』


その違いはほとんど気付かない程度ですが、これが航空写真となると、高いところから広い範囲を写すわけですから、ひずみも大きくなります。このひずみを補正するのが「オルソ化」です。
本文献では、1966年、1977年、2008年及び2009年の航空写真を「オルソ化」して植生を判別し、五色ヶ原の植生をハイマツ・ササ・高山植物・裸地に判別することに成功したとしています。
その結果、図1-2で示した範囲では1977年には8.28haだったチシマザサ の面積が31年後の2008年には57%拡大していることがわかったとしています。
また、ササはもとの分布域だけでなく、過去には分布していなかった場所への飛び地拡大によっても生育域を広げている様子が明らかとなったとしています。

『出典:山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として_P50 より』


【2】土壌の水分を推定する

ササの分布の拡大を引き起こしている環境要因を明らかにするためには、ササ拡大域における地表面特性、特に土壌水分値が重要であるとしています。しかし、広い面積の土壌水分を実測するのは、多大な労力を要し非効率です。
そこで本文献では、2つの地球観測衛星に搭載されたセンサ(「Terra/ASTER」「ALOS/PALSAR」)のデータを使って土壌水分値を推定していますが、本文献に出てくる2つのセンサの詳細は以下のとおりとなります。

 Terra/ASTER
ASTERは米国NASAのテラ(Terra)衛星に搭載された日本の地球観測用センサです。資源探査用将来型センサとして経済産業省と資源・環境観測解析センターが開発しました。
(参考:http://www.sed.co.jp/sug/contents/satellite/satellite_aster.html)
ちなみにTerraには別にMODISと呼ばれるセンサがあり、 東海大学情報技術センターおよび宇宙航空研究開発機構(JAXA)が準リアルタイムでデータを公開しています。
(参考:http://kuroshio.eorc.jaxa.jp/ADEOS/mod_nrt_new/index.html

 ALOS/PALSAR
ALOSとは、2006年1月にJAXAが打ち上げた陸域観測技術衛星で別名「だいち」と呼ばれます。「PALSAR」は、雨天や曇天といった天候条件、また昼夜にも影響されずに観測ができる能動型のマイクロ波センサです。
(参考:http://www.alos-restec.jp/staticpages/index.php/aboutalos-palsar
ちなみにJAXAでは、全球陸域を対象とした高精度デジタル3D地図を整備中で、30m相当解像度の全球数値標高データであれば無償で公開しています。
(参考:http://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/aw3d/index.htm

土壌水分値の推定結果が図1-7ですが、衛星の受信時刻と土壌水分の実測時の時間差の解消などが課題でモデルを確かめる必要があるとしています。
『出典:山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として_P52 より』
--
今回は航空写真や地球観測衛星から得られるデータを用いた研究でした。このような技術は「リモートセンシング」と呼ばれ地球資源探査や気象観測、海洋や地表の汚染調査等にも利用されています。
最近では「ドローン」などの普及によって手軽に空撮が可能となっていますし、気候変動研究の分野でもますます「リモートセンシング」技術の利用が進むのかもしれません。

【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
http://clover.rakuno.ac.jp/dspace/bitstream/10659/1667/1/S-35-1-47.pdf


【過去の文献紹介】
2015年03月12日 【第17回】  気候変動による利水への影響を踏まえたダム貯水池群の最適操作に関する研究~著者:川村一人ほか(2012) ~
2015年02月12日 【第16回】  「国土の長期展望」中間とりまとめ~国土交通省(2011)~
2015年01月08日 【第15回】  低炭素社会実現を目指す自治体レベルの取組と水平型ネットワークとの関係に関する考察 ~著者:高澤由美ほか(2010)~
2014年12月17日 【第14回】  長野県における適応策立案手法開発のための検討報告書 ~著者:著者:長野県環境保全研究所(2012)~
2014年10月09日 【第13回】  北海道における 集落の地域防災力評価手法に関する研究 ~著者:南慎一 他(2009)~
2014年09月11日 【第12回】  日本における短時間強雨の発現について ~著者:田坂郁夫(2013)~
2014年08月14日 【第11回】  暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動 ~著者:藤部文昭(2013) ~ 
2014年06月12日 【第10回】  ヒートアイランド監視報告書(平成22年)~気象庁~ 
2014年05月08日 【第9回】  S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ~著者:三村信男(2014) ~
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


メールマガジン「北海道環境メッセージ」を読んでみませんか?


『気候変動適応策文献紹介シリーズ』の更新は、北海道庁が発行するメールマガジン「北海道環境メッセージ」(月1回)に合わせて行います。 北海道に興味のある方、気候変動の最新の知見を知りたい方、是非とも登録して頂き、ご愛読下さい。

【登録はこちらから・・・】
http://www1.hokkaido-jin.jp/mail/magazine/

お問い合わせ先

環境保全部 情報・水環境グループ TEL: 011-747-3521(代表) FAX: 011-747-3254 E-Mail: ies(at)hro.or.jp
(迷惑メール防止のため、上記の (at) を小文字の@に変えてください。)
トップページ に戻る
Back to Top