【第19回】

暑い日が続きますね。この時期の外出は熱中症対策はもちろん、肌の露出も多くなりますので、紫外線対策や虫さされにも注意して楽しみたいですね。
特に虫刺されについては、昨年(2014年)の夏に東京・代々木公園を中心としてデング熱が流行したこともあり気になるところです。海外渡航歴のない人の国内でのデング熱への感染は約70年ぶりで、代々木公園周辺を旅行した札幌市在住の方もデング熱に感染しました。 この時は、デング熱がヒトからヒトに直接感染しないこと、またデング熱を媒介する蚊の生息が北海道では確認されていないことから、札幌市内で感染が拡大する可能性は極めて低いとされました。

【参考】:
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20140903-08.pdf

デング熱は熱帯地方で流行する感染症ですが、温暖化に伴って日本や北海道へのデング熱の感染のリスクが増えるということはないのでしょうか?
また、温暖化によりリスクの高まる感染症はほかにどのようなものがあるのでしょうか?

◆◆◆ 地球温暖化と感染症 ◆◆◆
◇◇◇環境省 地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会 (2007)◇◇◇


今回ご紹介する文献(以下、「本文献」という。)で温暖化と感染症の関係や北海道の感染症リスクなどについてみていきましょう。

【1】温暖化と感染症の関係

本文献では、温暖化と感染症の直接の関係があるかどうかはまだ、はっきりと確認されていないとしています。
例えば、蚊を媒介動物とする感染症(日本脳炎、マラリア、デング熱等)については、温暖化とともに増加することを予測する報告もあるものの、媒介動物の分布が、気温のほか降雨や地表水の状態の影響にも大きく依存していることから、将来予測は不確実な面があるとしています。
また、本文献では地球温暖化との関連が示唆される感染症として、以下の表を示しています。
『出典:地球温暖化と感染症P8 より』


本文献ではこのうち、日本に存在する感染症として3種類の感染症(日本脳炎、マラリア、デング熱)についての説明をしていますのでみていきましょう。

【2】日本に存在する感染症


■日本脳炎
日本脳炎は極東から東南アジア・南アジアにかけて広く分布しています。
国内の患者数は年当たり10人以下で、2005年には7名の患者が発生しました。患者の発生は西日本に多く見られますが、この感染症を人に媒介する日本脳炎ウィルス蚊(コダカアカイエカ)は、北海道を除く全国にいることが知られているとしています。(下図参照)
『出典:国立感染症研究所 感染症情報センター 日本脳炎 Q &A 第2版(平成21年6月4日一部修正) より』


将来、コダカアカイエカの生息域が拡大し、蚊の活動も盛んになれば日本脳炎の発生域が拡大して北海道に及ばないとも限りません。
実際、北海道でも2016年度より日本脳炎のワクチン接種が始まるようです(北海道新聞朝刊8/11より)。さらに最近韓国では、韓国全土に日本脳炎に関する警報を発令もしていますし、今後の日本脳炎に関する情報に注意していきましょう。

■マラリア
過去には北海道内を含め日本で発生していたマラリアですが、蚊の生息条件や住宅構造や人の行動様式の変化などによって、マラリア患者がいなくなったために現在の日本では発生しなくなっているとしています。
しかし現在の生活基盤が温暖化や大規模な自然災害などによって変化すると、”再発・再流行”する可能性があるとしています。
ただし、媒介するハマダラカは、高緯度地方や海抜が高い地域では 発生数が少なく活動する期間が限定されるとしています。

なお、国立環境研究所 地球環境研究センターのwebサイトによると、マラリアを媒介する蚊は2種類あり、そのうち比較的軽症の三日熱マラリアを媒介する「シナハマダラカ」は日本全国に広く分布しているとのことですので、北海道もマラリアと無関係ではなさそうです。

■デング熱
温帯地域に位置している日本では、ヒトスジシマカが都市部で発生密度が高い蚊であり、デング熱の流行に関わる可能性が高いとしています。
下図左は、1950年からヒトスジシマカ確認地点と、年平均気温11℃以上の地域を示しています。また、下図右は1998~2005年までのヒトスジシマカの分布域の拡大を示しています。
『出典:地球温暖化と感染症P15 より』

さらに『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書』では、1998~2012年までの分布域の拡大を示しています。
『出典:S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書P13 より』


2009年には八戸でもヒトスジシマカが確認されており、ヒトスジシマカの分布域がジワジワ拡大していることがわかりますね。
本文献では、温暖化やヒートアイランドなどで年平均気温が11℃以上になる地域が今後も増えると、ヒトスジシマカの分布が一層北上する可能性もあるとしています。『S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書』では北海道への上陸も推察されるとしています。
なお、ヒトスジシマカの分布域が拡大することは、将来、デング熱流行のリスクがある地域が拡大することを意味しますが、これらの地域ですぐに流行が起こるとか、感染の可能性が高まる訳ではないとしています。

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日本に存在する感染症として3種類の感染症(日本脳炎、マラリア、デング熱)をみてきましたが、どの感染症も北海道と無関係ではなさそうです。感染症について、正しい知識を持って対応したいですね。


【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/pamph_infection/full.pdf


【過去の文献紹介】
2015年06月11日 【第18回】  山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として~著者:星野仏方ほか(2010) ~
2015年03月12日 【第17回】  気候変動による利水への影響を踏まえたダム貯水池群の最適操作に関する研究~著者:川村一人ほか(2012) ~
2015年02月12日 【第16回】  「国土の長期展望」中間とりまとめ~国土交通省(2011)~
2015年01月08日 【第15回】  低炭素社会実現を目指す自治体レベルの取組と水平型ネットワークとの関係に関する考察 ~著者:高澤由美ほか(2010)~
2014年12月17日 【第14回】  長野県における適応策立案手法開発のための検討報告書 ~著者:著者:長野県環境保全研究所(2012)~
2014年10月09日 【第13回】  北海道における 集落の地域防災力評価手法に関する研究 ~著者:南慎一 他(2009)~
2014年09月11日 【第12回】  日本における短時間強雨の発現について ~著者:田坂郁夫(2013)~
2014年08月14日 【第11回】  暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動 ~著者:藤部文昭(2013) ~ 
2014年06月12日 【第10回】  ヒートアイランド監視報告書(平成22年)~気象庁~ 
2014年05月08日 【第9回】  S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ~著者:三村信男(2014) ~
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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