【第20回】

こんにちは。はやいもので2015年もあと2ヶ月となりましたね。

今年は9月に、台風18号の影響により茨城県や栃木県などで、記録的な豪雨が降り続きました。特に茨城県常総市では鬼怒川の堤防が決壊し、甚大な被害となりました。
昨年も広島や北海道で記録的な大雨となって、札幌市や岩見沢市などの約90万人には避難勧告が出されたことは記憶に新しいところです。
(http://www.ies.hro.or.jp/katsudo/kikou/kikou_13.html)
このように異常気象に伴う被害が頻繁におこる中、国が今世紀末までの温暖化の影響予測と、今後10年間で取り組むべき対策を盛り込んだ「適応計画」案を発表しました。
適応計画案には農林水産業や水資源、自然災害、生態系など7分野で、今後10年間に優先的に取り組むべき対策をまとめており、適応計画は11月末からパリで開かれる国連気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で報告されます。

今後、自治体ごとに有効な適応計画を作成するためにも、国の適応計画の方針や戦略を知っておくことは必要であると考えます。

◆◆◆ 気候変動の影響への適応計画(案) ◆◆◆
◇◇◇気候変動の影響への適応に関する関係府省庁連絡会議 (2015)◇◇


今回は、平成27年10月23日に開催された「気候変動の影響への適応に関する関係府省庁連絡会議 」中の資料「気候変動の影響への適応計画(案) 」をみていきましょう。

【1】基本的な考え方

 計画案は約80ページ、3部で構成されていて、第1部では適応計画の基本的な考え方や方針が述べられています。
 気候変動の影響が最悪となるシナリオにおいても、気候変動による被害を最小化あるいは回避し、迅速に回復できる、安全・安心で持続可能な社会の構築を目的として、「気候リスクに対する強靭性(レジリエンス)の構築」「科学的知見の充実」「気候リスク情報の共有化」「地域での適応の推進」などが戦略として掲げられています。
 気候リスクに対する強靱性(レジリエンス)とは「如何なる危機に直面しても、弾力性のあるしなやかな強さ(強靭さ)によって、致命傷を受けることなく、被害を最小化あるいは回避し、迅速に回復する社会、経済及び環境システムの能力」と理解されているとしています。具体的な手法として、以下のような手法がIPCC第5次評価報告書に示されており、様々な手法を組み合わせて総合的に適応を進めていくことが重要であるとしています。

表 IPCC第5次評価報告書における具体的な手法の例
                   
区分 手法
構造的・物理的手法 早期警戒情報システム
ハザードマッピング
水資源の多様化
下水道等による雨水・汚水の管理
道路インフラの改善等
湿地・都市緑地空間の維持
制度的手法 保険や建築基準等
社会的手法 意識向上等
出典:気候変動の影響への適応計画(案)P10の記述より作成

 また、「地域での適応の推進」においては、現場において主体的に検討し、地域の特性を充分踏まえて実施するとともに、各地域がそれぞれの特徴を活かした新たな社会の創生につなげていくという視点も重要であるとしています。

【2】分野別の施策

第2部では国の「農業・林業・水産業」「水環境・水資源」「自然生態系」「自然災害・沿岸域」「健康」「産業・経済活動」「国民生活・都市生活」の7分野(56小項目)について温暖化の影響の重大性、緊急性や影響予測の確実性を考慮して求められる対策を詳細に検討しています。
このうち、重大性、緊急性が高く、確実性も高いと評価された小項目は以下の9項目となっています。

表 重大性、緊急性、確実性のいずれも高いと評価された小項目
              
分野 小項目
農業・林業・水産業 水稲
果樹
病害虫・雑草
自然生態系 分布・個体群の変動
自然災害・沿岸域 洪水
高潮・高波
健康 死亡リスク
熱中症
国民生活・都市生活 暑熱による生活への影響等
出典:気候変動の影響への適応計画(案)P6の記述より作成

これらの項目の対策の概略は以下のとおりとなっています。
■「農業」分野では品質低下や病害の増加が懸念されるため、高温に強いコメや果物の品種改良に取り組むほか、「病害虫によるコメの被害軽減技術を2019年めどに開発する」としています。

■「自然生態系」では、都道府県によるニホンジカ等の捕獲を強化するとともに、鳥獣の捕獲の担い手の育成等を図るとしています。

■「自然災害・沿岸域」分野では、気温上昇に伴い局地的な短時間豪雨が増え、洪水の危険性の増加が懸念されるため、堤防の整備に加え、災害リスクが高い地域を将来的に示し、リスクの低い地域への居住を誘導するなどソフト面の対策も進めるとしています。

■「健康」分野では、特に農林水産業における作業について、熱中症対策として機械の高性能化やロボット技術の積極的な導入を進めるとしています。

他にも小項目ごとに影響予測と対策が記載されているので、興味のあるところをみてみると良いでしょう。
個人的にはスキー場の将来が気になりましたので、この計画案の評価を調べたところ、『観光業』の項目で重大性が「特に大きい」、緊急性が「中程度」、確信度が「高い」となっていました。
当然ですが、スキーだけが観光業ではなく、様々なレジャーがありますので、今回の文献を踏まえながらも個別の産業や地域ごとにきめ細かく分析していくことが必要でしょう。

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今回、国の気候変動の適応計画案が示されましたが、地方では多くの自治体が、「気候変動の影響が既に現れ適応が必要と考えているものの、影響評価の実施や適応計画の策定まで至っていない。」と計画案には記載されています。
気候変動適応策文献紹介シリーズでは、今まで19回にわたって北海道に関する話題を中心として文献を紹介してきました。次回はこれらの文献を整理し、北海道の適応策に関する知見をまとめたいと思います。


【今回ご紹介した文献はこちら・・・】
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/tekiou/2siryo2.pdf


【過去の文献紹介】
2015年08月13日 【第19回】  地球温暖化と感染症~著者:環境省 地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会 (2007) ~
2015年06月11日 【第18回】  山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として~著者:星野仏方ほか(2010) ~
2015年03月12日 【第17回】  気候変動による利水への影響を踏まえたダム貯水池群の最適操作に関する研究~著者:川村一人ほか(2012) ~
2015年02月12日 【第16回】  「国土の長期展望」中間とりまとめ~国土交通省(2011)~
2015年01月08日 【第15回】  低炭素社会実現を目指す自治体レベルの取組と水平型ネットワークとの関係に関する考察 ~著者:高澤由美ほか(2010)~
2014年12月17日 【第14回】  長野県における適応策立案手法開発のための検討報告書 ~著者:著者:長野県環境保全研究所(2012)~
2014年10月09日 【第13回】  北海道における 集落の地域防災力評価手法に関する研究 ~著者:南慎一 他(2009)~
2014年09月11日 【第12回】  日本における短時間強雨の発現について ~著者:田坂郁夫(2013)~
2014年08月14日 【第11回】  暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動 ~著者:藤部文昭(2013) ~ 
2014年06月12日 【第10回】  ヒートアイランド監視報告書(平成22年)~気象庁~ 
2014年05月08日 【第9回】  S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ~著者:三村信男(2014) ~
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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