【第21回】(最終回)

こんにちは。今年もついにあと1ヶ月となりました。
年末は仕事に忘年会に何かと忙しい季節。体調に注意しながら乗り切っていきましょう。
北海道では、11月下旬に道央を中心にまとまった雪に見舞われ、11月の積雪としては札幌市で1953年以来62年ぶりの44センチ、帯広市で1947年以来68年ぶりの40センチに達しました。 これからの季節は、積雪や凍結による転倒にも注意が必要ですね。

気候変動適応策文献シリーズでは、これまで20回にわたり、北海道の気候変動適応策に関する研究を中心にレビュー活動を行い、情報発信を行ってきました。これは気候変動による影響はさまざまな分野に影響するため、まずは全体を眺められるようなベースをつくりたいとの考えから始められました。

今回は、これまで紹介した文献を分野別にまとめ、北海道における気候変動適応策の知見を整理してみたいと思います。
北海道の気候変動による影響や適応策の「ベース」というにもまだまだ不十分ではありますが、とりあえずの通過点としてご覧いただければと思います。

なお、「分野」については、前回(第20回)でご紹介した、『気候変動の影響への適応計画(案)』で用いられているカテゴリー「農業・林業・水産業」「水環境・水資源」「自然生態系」「自然災害・沿岸域」「健康」「産業・経済活動」「国民生活・都市生活」を参考に整理しました。
「紹介要旨」に記載した予測は、各文献で設定された条件に基づいて予測されたもので、設定条件が変われば結果も変わる可能性があること、最新あるいは今後の研究では異なる予測が出る可能性があることも留意の上、ご覧ください。


表 「気候変動適応策文献紹介シリーズ」紹介文献まとめ
                    
分野 紹介文献 紹介要旨
農業・林業・水産業 【第7回】
気候変動への賢い適応
・コメ~北海道で収量増加。
・りんご~北海道の平野部全域が栽培適温地となる。
・回遊魚~サケ類の日本周辺での生息域の減少の懸念。ニシンやスルメイカの漁場の北上化。
水環境・水資源 【第5回】
結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
・全面結氷する茨戸川の水質及び結氷期間の将来予測。
・気温の上昇によって茨戸川の水質は悪化する(BODの上昇。)。
(なお、寒冷地では結氷による嫌気化による水質悪化が結氷期間短縮により改善される可能性もある。)
【第8回】
気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測
・気候変動の影響により石狩川は河川流量が増大し、最上川は減少する。
・石狩川では、融雪期が早まることにより、6~7月のダムの貯水量が減少し、稲作等営農に必要な流量の確保が困難になる。1)
【第17回】
気候変動による利水への影響を踏まえたダム貯水池群の最適操作に関する研究
・豊平川には豊平峡ダムと定山渓ダムの2つがある。
・気候変動によって豊平峡ダムへの融雪出水のピークが5月から4月へと早まる。
・5月以降、流入量が減少した後に、現在と同じ放流量を維持すると、6月中旬から8月中旬にかけて利水放流ができない日が発生する。(豊平峡ダム)
・定山渓ダムとの連携により、単体操作による水不足は回避可能である。
自然生態系 【第3回】
地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発
・森林総合研究所は全国に5箇所、地域を代表する森林の炭素収支量を測定している。
・落葉広葉樹林(札幌、安比(岩手県)は冬に炭素を放出する一方、常緑針葉樹(富士吉田(山梨)、鹿北(熊本))は一年を通して炭素を吸収している。
・札幌は2004年の台風被害により、調査地の50%以上の樹木が折れたり倒れたりした結果、被害前に比べて夏期の炭素吸収量が半分になったが冬期の放出量はほとんど変化が無く、年間トータルでは放出の方が大きくなった。
【第9回】
温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 
・北海道のブナの生息域の気候変動に伴う将来予測。
・道南に潜在的生息域があるので、ここを保護区にすることがブナの保護につながる可能性がある。
【第18回】
山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として
・大雪山系の雪解けの早期化により土壌乾燥が進行、五色ヶ原では2008年のチシマザサが1977年に比べて57%拡大した。
自然災害・沿岸域 【第12回】
日本における短時間強雨の発現について 
・30mm強雨(時間降水量30mm以上)の発生頻度は北海道が最も低く、最も高い南西諸島の20分の1以下である。南で高く北で低い傾向は他の地域を含め確認できる。
・北海道における強雨の発現に変化を読み取ることはできなかった。
【第13回】
北海道における 集落の地域防災力評価手法に関する研究 
・農業集落3,123のうち、385集落が孤立の可能性がある。(道内市町村アンケート調査での回答)
健康 【第10回】
ヒートアイランド監視報告書
・北海道地方の都市の中で札幌のみがヒートアイランド現象とみられる現象が生じている。特に1月の日最低気温は100年の間で6℃上昇している。
・札幌においてはヒートアイランド現象が起きやすい状況下では、昼で2℃程度、夜では2.5℃程度の昇温効果がある。
【第11回】
・暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動
・熱中症患者速報  
・平成25年度の札幌の熱中症の患者数を紹介。
・全国の大都市と比べるとその数は低い。
・発生率では、65歳以上及び7~18歳が高い。
・発生場所は、65歳以上は住宅、7~18歳は運動中や学校等野外が多い。
【第19回】
地球温暖化と感染症
・「日本脳炎」~北海道でもワクチン接種が始まっている。※) (2015年8月11日北海道新聞より)
・「マラリア」~三日熱マラリアの媒介蚊であるシナハマダラカは日本全国に分布している。2)
・「デング熱」~媒介蚊であるヒトスジシマカは2009年には八戸でも確認されており、北海道への上陸も可能性がある。3)

※)2015年10月9日更新の札幌市のホームページにも平成28年4月1日から日本脳炎を定期予防接種として実施する予定であることが掲載されました。
産業・経済活動 【第4回】
地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて- 
・2031~2050年において、北海道では中央部の数ヶ所のスキー場を除いて積雪量は減少、2081~2100年はすべてのスキー場で減少する。
・事例として夕張市のスキー場で滑走可能日数を推定。2081年~2100年は41日を超えるシーズンがなくなってしまう。
【第6回】
家庭・業務部門の温暖化対策 
・北海道と関東の「一人あたり年間エネルギー使用量」を世帯員数ごとに計算。
・単身世帯と2人世帯を比較すると、一人あたり使用量はほぼ一致(北海道でも関東でも同じ傾向)。
国民生活・都市生活 なし


■農業・林業・水産業

農業・林業・水産業は北海道にとって基幹産業であり、気候変動による影響について特に関心のある分野です。
 気候変動適応策文献シリーズでは、『【第7回】気候変動への賢い適応』における1文献のみ、予測の対象も「コメ」「りんご」「回遊魚」のみの紹介でした。「コメ」は収量増加、「りんご」は北海道内の平野部全域が栽培適温地となるという北海道にとって比較的良い予測がなされましたが、必ずしもいいことばかりではありません。例えば、北海道立総合研究機構が実施した研究4) では、「コメ」は収量、味も良くなりますが、

・小麦は減収
・砂糖の原料となるてんさいは糖分が下がる
・ばれいしょ・じゃがいもは減収
・豆類は増収になるけれども品質は下がる

という予測で、主に北海道ならではの畑作物に悪影響が予想されています。このため、冷害に強くかつ、気温が高くても強い、病気などにも強い品種の開発、種まきから収穫までの作業に適した時期が変わっても対応できる栽培技術、雨が降る時期や量が変わっても対応できる排水施設など基盤整備が重要としています。

  また、林業及び水産業については、北海道では例えばキノコの栽培、ホタテガイやシジミの生産の気候変動の影響が気になるところです。 『気候変動の影響への適応計画(案)』によると、現時点ではそれらが該当する小項目の「特用林産物(きのこ類等)」「増殖業」のどちらも研究・報告の数が少なく、確信度が低いと評価されており、正確な予測のためにさらに研究を進めていく必要がありそうです。

■水環境・水資源

 茨戸川の水質、石狩川の河川流量、及び豊平川の河川流量と利水に関する将来予測についての文献を紹介しました。
『気候変動の影響への適応計画(案)』によると、気候変動が河川環境等に及ぼす影響については、「特定の河川において水質、水温の変化を予測する研究は一部で進められているが、現時点では研究事例が充分でなく、確信度が低い」と評価されており、現時点では河川全体の影響をみるために、引き続き水質のモニタリングのほか、気候変動による雨量の変化によって河川流量はどのように変化するのか、洪水の危険性や稲作等営農に必要な水の量は確保できるのかなど、今後さらに研究を進める必要がありそうです。
 また、北海道には世界遺産の知床五湖、日本有数の透明度を誇る摩周湖やホタテを養殖しているサロマ湖などたくさんの湖があります。これらを含む北海道内の湖の水質や結氷の時期などの、気候変動の影響に関する研究を進める必要があるでしょう。

■自然生態系

 『【第18回】山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究』では、大雪山系五色ヶ原のチシマザサついての文献を紹介しましたが、北海道には大雪山以外にも高い山がたくさんあり、これらの山の気候変動の影響が気になるところです。
例えば、『【第14回】長野県における適応策立案手法開発のための検討報告書』でご紹介した長野県の取り組み事例では、「信州クールアース推進調査研究事業」として、温暖化の実態を把握するため気象庁などの気象資料のほとんど得られない山岳地域を独自に8ヶ所選定し、気温等の観測を1996年から開始しています。
 このような長野県の取り組み事例などを参考に、北海道でも調査を進めると面白いかもしれません。

■自然災害・沿岸域

 自然災害には、「洪水」「海面上昇」「高潮・高波」「海岸浸食」「土石流・地すべり等」「強風」など、さまざまなものがあります。
『気候変動の影響への適応計画(案)』で集積されている研究・報告は全国規模のものが多く、特に自然災害・沿岸域に関するものはその傾向が強いようです。
 しかし、実際の災害になった場合の対応は、地域の自治体等ですので、自然災害の種類別でなく、地域を絞った自然災害全体の研究や情報の集積が今後必要になりそうです。

■健康

北海道の都市の中では札幌のみがヒートアイランドの現象が確認できること、熱中症の人数は全国のほかの都市と比べると少ないこと、また、感染症では「日本脳炎」「マラリア」「デング熱」の感染症が北海道に影響が全くないとはいえないことを紹介しました。
今後は、ヒートアイランドの影響や高齢化などの状況から熱中症や感染症にかかる人が増えるかもしれませんので、これらの対策を進めるための研究が必要でしょう。

■産業・経済活動

 『【第4回】地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測』では、2031~2050年において、北海道中央部の数ヶ所のスキー場を除いて積雪量は減少、2081~2100年はすべてのスキー場で減少するという予測結果を紹介しました。
冬のレジャーとしてはスキーのほかに、屋外でのスケートやワカサギ釣りなど、夏は海水浴などの気候の影響を受けそうなレジャーがあり、これらのレジャーの気候変動による変化が気になるところです。

■国民生活・都市生活

 この分野に関係する文献の紹介はありませんでした。
『気候変動の影響への適応計画(案)』によると、豪雨や渇水等による水道事業や交通機関の影響は確認されているものの、これが気候変動の影響によるものかどうかは判断しがたいとしています。
 このほか、花見や紅葉狩りの観光業への影響や日本人の季節感についても、懸念しています。長い目で注意することが必要ですね。

【参考】
1)国土交通省北海道開発局 札幌開発建設部 石狩川流域における気候変動に適応した治水・利水対策検討会:
石狩川流域における気候変化に適応した治水・利水対策のあり方について取りまとめ (2011)
http://www.sp.hkd.mlit.go.jp/kasen/11saigai/13chisuirisui/pdf/chisuitorimatome.pdf

2)国立環境研究所 地球環境研究センター:
ココが知りたい温暖化Q7「日本でもマラリア流行?」
http://www.cger.nies.go.jp/ja/library/qa/22/22-2/qa_22-2-j.html

3)環境省環境研究総合推進費 戦略研究開発領域:
S-8温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 (2014)
http://www.nies.go.jp/whatsnew/2014/20140317/20140317-3.pdf

4)北海道立総合研究機構農業研究本部中央農業試験場、志賀弘行・中辻敏朗編:
戦略研究「地球温暖化と生産構造の変化に対応できる北海道農林業の構築-気象変動が道内主要作物に及ぼす影響の予測-」成果集
北海道立総合研究機構農業試験場資料第39号(2011)

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これまで、2年余りに渡って気候変動適応策文献シリーズを掲載してきました。
始めた当初は「適応策」は必ずしも一般的な文言ではありませんでしたが、国が「適応計画」案を公表した今年の10月あたりから急にインターネット上やマスコミに取り上げられる機会が増えたような気がします。
 2015年11月30日から12月11日までは、フランス・パリで、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)が開かれますので、「適応策」はさらに認知度を増して、北海道内の自治体や市民からも「適応策」への機運が高まるものと思います。
その際、この気候変動文献シリーズが少しでも参考になり、関心のある分野へのステップとなる、あるいは情報収集作業の節約になるなど「適応策」への後押しができていれば幸いです。

長い間、お付き合いいただきありがとうございました。

【これまでご紹介した文献】
2015年11月12日 【第20回】  気候変動の影響への適応計画(案)~著者:気候変動の影響への適応に関する関係府省庁連絡会議 (2015) ~
2015年08月13日 【第19回】  地球温暖化と感染症~著者:環境省 地球温暖化の感染症に係る影響に関する懇談会 (2007) ~
2015年06月11日 【第18回】  山岳生態系における植生変動の定量化に関する研究 -北海道大雪山系五色ヶ原を例として~著者:星野仏方ほか(2010) ~
2015年03月12日 【第17回】  気候変動による利水への影響を踏まえたダム貯水池群の最適操作に関する研究~著者:川村一人ほか(2012) ~
2015年02月12日 【第16回】  「国土の長期展望」中間とりまとめ~国土交通省(2011)~
2015年01月08日 【第15回】  低炭素社会実現を目指す自治体レベルの取組と水平型ネットワークとの関係に関する考察 ~著者:高澤由美ほか(2010)~
2014年12月17日 【第14回】  長野県における適応策立案手法開発のための検討報告書 ~著者:著者:長野県環境保全研究所(2012)~
2014年10月09日 【第13回】  北海道における 集落の地域防災力評価手法に関する研究 ~著者:南慎一 他(2009)~
2014年09月11日 【第12回】  日本における短時間強雨の発現について ~著者:田坂郁夫(2013)~
2014年08月14日 【第11回】  暑熱(熱中症)による国内死者数と夏季気温の長期変動 ~著者:藤部文昭(2013) ~ 
2014年06月12日 【第10回】  ヒートアイランド監視報告書(平成22年)~気象庁~ 
2014年05月08日 【第9回】  S-8 温暖化影響評価・適応政策に関する総合的研究 2014報告書 ~著者:三村信男(2014) ~
2014年04月10日 【第8回】  気候変化が日本の河川流量に及ぼす影響の予測 ~著者:立川康人ほか(2011) ~
2014年03月13日 【第7回】  気候変動への賢い適応 ~環境省 地球温暖化影響適応研究委員会(2008)~
2014年02月13日 【第6回】  家庭・業務部門の温暖化対策 ~藤沼康実(国立環境研究所)ほか(2008)~
2014年01月09日 【第5回】  結氷する停滞性水域の水質に対する気候変動の影響
2013年12月12日 【第4回】  地球温暖化がスキー場の積雪量や滑走可能日数に及ぼす影響予測-気象庁RCM20予測を用いて-
2013年11月14日 【第3回】  地球温暖化が農林水産業に及ぼす影響評価と緩和及び適応技術の開発 ~農林水産省~
2013年10月10日 【第2回】  気候変動監視レポート2012 ~気象庁~ 
2013年09月12日 【第1回】  地球温暖化予測情報 第8巻 ~気象庁~ 


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