北海道湿原保全マスタープラン

平成6年6月

目次



はじめに
 私たちが住む北海道は、四面を豊かな海に囲まれ、変化に富む山岳や天然林を主とする森林、広々とした湿原、美しい湖沼などが織り成す雄大な風景と様々な動植物が息づくすばらしい自然環境に恵まれています。
 その中でも湿原は、北海道の豊かな自然を象徴し、多様な動植物の生息・生育環境として極めて重要であり、近年、調査研究の進展に伴って、その多面的な機能や役割が見直されてきています。
 また、平成5年6月には釧路市で「ラムサール条約第5回締約国会議」が開催され、湿原保全の重要性に対する認識が高まってきています。
 一方では、湿原及びその周辺の地域における様々な土地利用の結果、生態系への影響が懸念されている湿原も見られます。このようなことから、道では、平成元年7月に策定した「北海道自然環境保全指針」の趣旨を踏まえ、湿原保全についての基本的な考えを示す本マスタープランを策定しました。
 自然は、私たち道民一人一人の生活基盤であり、貴重な財産であることから、自然の恵みを将来にわたって享受できるよう、自然の大切さを正しく認識し、道民、事業者及び行政が相互に協力して、それぞれの立場から自発的、積極的な取組みをしていくことが重要と考えます。
 道は、自然環境保全施策の一環として、このマスタープランに基づき、湿原の保全を図るためにさらに努力していく考えでありますので、道民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます。

平成6年6月     北海道保健環境部長  厚谷 純吉




第1章 マスタープラン策定の目的と性格

1 マスタープラン策定の背景と目的
 北海道は、気候的、地形的な環境条件などから湿原が形成されやすいため、日本の湿原の多くを有し、海岸地域から河川を経て山岳地域まで、環境条件に応じた様々なタイプの湿原があり、その原始的で特異な景観は、北海道を象徴する自然の一つになっている。
 湿原は、水源のかん養や水質浄化、気象の緩和などの機能を持つとともに、多様な野生生物の生息・生育環境として位置付けられるなど、湿原に関する調査研究の進展に伴って、その役割や価値が見直されてきている。
 また、湿原は、水と土地と野生生物が相互にかかわりあいを持った生態系として、その微妙なバランスの上に成立していることから、構造的に非常に脆弱で不安定であり、いったんバランスが崩れると、その回復は容易でないことも認識されてきている。
 本道の湿原は、開発の進展とともに平野部を中心に、主として農業や水産業の場として利用され、地域における産業基盤の確立など本道の経済的発展に少なからず寄与してきているが、このために平野部の多くの湿原が失われるとともに、残された湿原についても脆弱な生態系への影響が現れているものもある。
 湿原を経済的、観光的、教育的な活動の場として利用していく各種の要請は、その立地条件や特徴ある景観、特異な生態系などから、今後とも一層増大するものと予想され、湿原の持つ機能や役割などの重要性を認識した上で、湿原をいかに持続的に有効に利用し、どのように保護していくかが、重要な課題となっている。
 このようなことから、本マスタープランは、人間生活や産業活動との調整を図りつつ湿原を適切に保全するため、広く道民の理解と協力を得ながら、湿原の保護と利用に関する施策が総合的、計画的に推進されるよう、湿原の保全について道の基本的な考え方を示すものである。
2 マスタープランの性格
 本マスタープランは、「北海道自然環境保全指針」の趣旨を踏まえ、同指針の保全を図るべき自然地域に係る湿原の保全について、道の基本的考え方を示すものであり、国に対しては要望的、市町村に対しては誘導的な性格を有するとともに、道民や事業者に対しては理解と協力を求めながら、各種の開発事業等の実施に当たって、それぞれの構想段階から自発的、積極的な湿原保全への配慮を期待するものである。
 したがって、本マスタープランは、法律や条例等に基づく地域指定や基準とは異なり、法的な効力を有したり、規制を伴うものではない。
 また、本マスタープランでいう「保全」とは、湿原の保護と利用をあわせた概念であって、湿原を良好な状態に保ちながら、人間生活の向上のためにその機能の持続的で合理的な活用を図ることを意味し、更に湿原の維持や回復などをも含むものである。 
3 湿原の定義
 本マスタープランでいう湿原は、山地部、河川の流域、湖沼の周縁部、沿岸部などにある湿った土地に形成され、主にミズゴケ類、スゲ類、ヨシ、アッケシソウなどの自然植生を有する1ha以上の広がりを持つ草原などで、そこに付随する小規模な池沼群を含むものとする。

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第2章 北海道の湿原の現状と課題

1 湿原の機能と役割
 湿原は、水の存在などからこれまで利用し難い土地として取り扱われてきたが、近年、湿原に関する調査研究の進展に伴って動植物の貴重な生息・生育の場としてだけでなく、人間にとっても重要な次のような機能や役割等を有していることが明らかにされている。
(1)公益的な機能
(2)産業的な役割
(3)野生生物の生息・生育の場としての役割
(4)学術的な価値
(5)教育・レクリエーションの場としての役割

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2 北海道の湿原の特徴
 本道は、植生帯の区分では冷温帯から亜寒帯に位置し、その冷涼な気候に起因して泥炭が形成されやすいことや火山地形に起因した溶岩台地の存在や河川の氾濫などから、山地部から平野部にわたって多くの湿原が存在するとともに、高層湿原中間湿原低層湿原塩湿地など様々なタイプの湿原が見られる。
 特に、開発の歴史が浅いことや地理的、気候的条件から、本州では数少ない平野部の湿原が比較的よく残されており、これらの湿原のなかには人手の加わらない自然性と水平的な広がりを持つものも多く、本道を代表する自然景観として高い評価を受けている。
 また、これらの湿原のなかには渡り鳥などの重要な中継地、繁殖地又は越冬地であるものや、氷河期の遺存種として、ユーラシア大陸と隔離された動植物の生息・生育環境となっているものもある。
 本道の湿原を特徴づける動物としては、道東地方に生息するタンチョウ、道北地方に生息する爬虫類のコモチカナへビ、釧路湿原に生息する両生類のキタサンショウウオ、魚類ではイトウ、昆虫ではイイジマルリボシヤンマ、エゾカオジロトンボなどがある。
 植物では、釧路湿原と周辺で見られるクシロハナシノブ、ハナタネツケバナ、霧多布湿原のカラクサキンポウゲ、落石岬湿原のサカイツツジ、更別湿原のヤチカンバ、ニセコ大谷地湿原のフサスギナなどが挙げられる。

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3 湿原に関連する法令
 湿原を適切に保全していくに当たっては、法令に基づく地域指定による行為規制などが重要な役割を持っている。
(1)法令に基づく地域指定
 次の法令は、それぞれの目的に応じ保護の度合いや利用の考え方について定めており、地域を指定して、地域内の現状変更や工作物の設置等を制限するなどして、自然環境の保全を図っている。
  1.  「自然公園法」及び「北海道立自然公園条例」に基づく国立公園・国定公園・道立自然公園
     すぐれた自然の風景地の保護と利用の増進を目的とし、風致景観に影響を及ぼす行為が規制される。国立公園では釧路湿原、国定公園では雨竜沼湿原、道立自然公園では霧多布湿原などがある。
  2.  「自然環境保全法」及び「北海道自然環境等保全条例」に基づく自然環境保全地域等
     自然環境の適正な保全を総合的に推進することを目的とし、保全を図るべき地域の資質と保全目的に応じ、自然環境に影響を及ぼす行為が規制される。
     道自然環境保全地域としては、落石岬湿原、松山湿原などがある。
  3.  「鳥獣保護及狩猟二関スル法律」に基づく鳥獣保護区
     鳥獣の保護事業の実施や狩猟を適正化することにより、鳥獣の保護繁殖、有害鳥獣の駆除などを図ることを目的としている。
     鳥獣保護区内では鳥獣の捕獲が禁止されているほか、鳥獣保護区内の特別保護地区では鳥獣の保護繁殖に影響を及ぼす行為が規制される。
     特別保護地区としては、ウトナイ湖湿原、サロベツ湿原などがある。
  4.  「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づく生息地等保護区
     絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存を目的とし、希少野生動植物種を指定することにより捕獲・譲渡等が規制されるほか、その生息・生育地を生息地等保護区に指定することにより指定種の保存に影響を及ぼす行為などが規制される。
  5.  「文化財保護法」及び「北海道文化財保護条例」に基づく天然記念物
     文化財の保存や活用を図ることを目的とし、地域や特定の種を指定することにより、現状変更に係る行為が規制される。
     地域指定としては、釧路湿原、雨竜沼湿原などがある。
(2)その他の法令による規制など

 湿原に関連する法令としては、前記によるもののほか、次のようなものがある。
  1.  水質の保全等に関連する法令
     水質汚濁防止法、湖沼水質保全特別措置法、特定水道利水障害の防止のための水道水源水域の水質の保全に関する特別措置法、水道源水水質保全事業の実施の促進に関する法律、下水道法、浄化槽法、農薬取締法、廃棄物の処理及び清掃に関する法律、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律など
  2.  自然災害の防止など国土の保全や適正な管理、利用等に関連する法令
     河川法、森林法、海岸法、砂防法、港湾法、公有水面埋立法など
  3.  計画的な土地利用や秩序ある開発等に関連する法令
     国土利用計画法、農地法、都市計画法、国土総合開発法、北海道開発法、北海道環境影響評価条例など
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4 湿原保全の現状と課題
 我々は、湿原を様々なかたちで利用し、その恩恵を享受しており、近年、湿原に対する道民の関心が高まるにつれて、その機能の認識が深まるとともに湿原の果たす役割に対する期待が高まっている。
 本道においては、平野部の湿原を中心に、湿原とその周辺地域の様々な土地利用等により、湿原の減少や水量及び水質の変化や野生生物に対する影響が懸念されている湿原も見られる。
 また、湿原を適切に保全していくためには、生態系の調査研究や道民の湿原への理解を深める普及啓発、さらには国際協力の推進などが課題となっている。
(1)湿原の減少
 湿原のなかには自然の動きのなかで乾燥化していくものもあるが、北海道の開発の歴史の中で、平野部の湿原は農業を中心とした土地の利用が進められるとともに、湿原が生活や産業活動の場として直接利用されることにより、次第に減少してきている状況にある。
 湿原の減少により、本章で述べた機能の低下が懸念されており、適切に保全を図っていく必要がある。
(2)水量及び水質の変化による影響
 湿原は、水の存在に大きく依存しているため、水質の変化はもちろん、水の流入、流出、貯留といった水の移動に係る因子の変動によって、富栄養化や乾燥化などの影響を受けることが知られている。
 特に、平野部の湿原のなかには、生活排水や流入土砂等による水質の汚濁など、湿原とその周辺地域の様々な土地利用による影響が懸念されている湿原も見られる。
 このような状況にある湿原については、流域を視野におき、湿原の区域だけでなく湿原に影響を及ぼすことが懸念されている周辺地域において、環境への負荷を低減するような総合的な対策を講じ、湿原の保全を図っていく必要がある。
(3)野生生物に対する影響
 湿原が自然観察や観光などに利用されている場合、車両の乗り入れ、踏み付け等によって植生や動物への直接的な影響が見られるものもある。
 さらに、様々な要因による植生などの変化を通して、野生動物の生息環境が間接的に影響を受けることが知られている。
 このため、湿原の利用に際しては、野生生物の生息・生育環境にできるだけ影響を与えないよう配慮する必要がある。
(4)調査研究
 近年、湿原に関する調査研究の進展に伴い湿原の役割や価値が見直され、その機能の発揮が期待されている。
 このような状況の中で、湿原の保全対策を効果的に推進していくためには、水質等と湿原植生との相互の関連性や水質等が動物に与える影響など湿原生態系に関する研究や湿原の変化を把握するためのモニタリング手法、湿原を維持・回復するための技術開発などの調査研究を積極的に推進する必要がある。
(5)普及啓発と国際協力
 本道において、ラムサール条約第5回締約国会議や湿原保全国際フォーラムなどの湿原に関する国際的に重要な会議が開催されたことなどにより、道民の湿原に対する関心が徐々に高まりつつあるが、湿原の保全を進めていくためには、さらに湿原の持っている機能や役割等の普及啓発や自然教育の充実などに努め、道民の理解と協力を求める必要がある。
 また、国際的な動向として、ラムサール条約や生物多様性条約に見られるように、湿原の保全や生物の多様性の保持に当たっては、多国間の協力が求められている。
 このため多様な野生生物、特に渡り鳥にとって重要な生息環境である湿原の賢明な利用や、機能の維持、復元のための技術開発などについて、諸外国との情報交換や技術交流など国際間の協力を推進する必要がある。

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第3章 湿原保全の考え方
 本道には、なお自然の状態で多くの湿原が残されているが、人々が生活する上で有利な環境条件にある平野部の湿原を中心に減少傾向にある。
 また、湿原は、流入する水量、水質等に大きく影響されることから、周辺地域の開発の進展に伴ってその機能の低下が懸念されている。
 近年、湿原の多面的な機能や役割が、人々の生活や産業活動に大きくかかわっていることが認識され、道民の湿原に対する関心が高まるとともに、その保全に対する期待が強くなっている。
 我々は、今まで湿原を様々な形で利用してきているが、将来にわたって持続的に湿原の機能を維持し、その恩恵を享受していくためには、湿原の機能が維持・増進されるよう、また、その利用に当たっては機能が損なわれることのないよう、次の観点から湿原の保全施策を推進する。
1 湿原周辺地域の保全対策の展開
 湿原の周辺地域は、湿原と密接なかかわりを持ち、湿原に対する水の供給源や生態系への影響を和らげる緩衝地帯として重要な役割を果たしており、湿原に影響を及ぼすことが懸念されている人間生活や産業活動に伴う負荷を低減するよう、流域を視野においた周辺地域の保全対策の推進を図る。
2 湿原の持つ機能の維持と持続的な利用の推進
 湿原の持つ固有の機能が将来にわたって維持されるよう、人間生活や産業活動との調整を図りながら、その機能が損なわれないような持続的な利用のあり方、いわゆるワイズユースを念頭においた湿原の利用を図る。
3 湿原の保全に配慮した事業等の実施
 各種開発行為等の実施に当たっては、国、地方公共団体、事業者、道民がそれぞれの立場で、自ら湿原の保全に配慮するよう求める。
 また、湿原の周辺地域における保全対策については、国や地方公共団体との連携を図るとともに、関係機関等の協力を得ながら効果的に進める。

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第4章 湿原保全施策の推進
 湿原は、地域住民の生活や産業活動と密接なかかわりを持っており、湿原の保全を進めるに当たっては、関係法令の適正な運用を図るとともに、関係者の理解と協力を求めながら、次の施策を推進する。
1 法令に基づく地域指定の推進
 湿原の機能の維持及び増進を図りながら、湿原を適切に保全していくに当たって、各種法令に基づく地域指定は重要な役割を持っている。
 このため、地域指定により保全を図ることが適当と認められる湿原については、関係する機関と十分協議し、自然公園法等関係法令に基づき積極的に地域指定に努める。
  1.  「自然公園法」及び「北海道立自然公園条例」に基づく自然公園の指定に努め、湿原のすぐれた自然景観の適正な保護と利用を図る。
     また、自然公園内の湿原(湖沼)については、必要に応じ「指定湿原(湖沼)」として指定することにより、汚水等の排出を規制し水質の保全を図る。

  2.  「自然環境保全法」及び「北海道自然環境等保全条例」に基づく自然環境保全地域等の指定に努め、湿原のすぐれた自然環境の適正な保全を図る。 
     また、自然環境保全地域及び道自然環境保全地域内の湿原(湖沼)については、必要に応じ「指定湿原(湖沼)」や「野生動植物保護地区」として指定することにより、汚水等の排出を規制し水質の保全を図るとともに、野生動植物の保全を図る。

  3.  鳥獣の保護繁殖上重要な湿原については、「鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律」に基づく鳥獣保護区の設定に努め、鳥獣の生息環境の適正な保全を図る。
     また、鳥獣保護区内の湿原については、必要に応じ「特別保護地区」として指定することなどにより、鳥獣の生息環境のより適正な保全を図る。

  4.  絶滅のおそれのある野生動植物の生息・生育地となっている湿原については、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」に基づき、その生息・生育地が「生息地等保護区」に指定されるよう努め、適正な保護・管理を図る。

  5.  学術的に貴重な湿原及び学術上価値の高い動物の生息地となっている湿原については、「文化財保護法」及び「北海道文化財保護条例」に基づき、「天然記念物」に指定されるよう努め、適正な保護を図る。

2 湿原保全のための配慮事項
 湿原を保全していくに当たっては、湿原の区域だけでなくその周辺地域を含めて、土地利用の動向に十分留意しながら保全対策を講じていくことが重要と考えられる。
 このため、湿原及び周辺地域での土地利用や開発行為等については、湿原の機能の維持・増進が図られるよう、また、その負荷を低減するよう努める。
(1)開発行為等における配慮
(2)周辺地域における配慮
(3)適正な利用及び管理
3 湿原保全プランの策定
 湿原は、それぞれ自然環境や社会環境が異なっており、その機能の持続的な利用や保全対策を総合的に推進するためには、流域を視野におきつつその特性や現況に応じた保全のあり方を、明らかにする必要がある。
 このため、各種の要因により湿原生態系への影響が懸念される湿原のうち、多種多様な動植物が生息・生育するなど生態系の保全上重要であるか、又は湿原そのものが学術的価値の高いもので、総合的な保全対策を講じる必要がある湿原について、本マスタープランの趣旨に沿って、保全の基本的な考え方や目標、保全施策とその推進体制などを示す湿原保全プランを策定する。
 策定に当っては、国や地方公共団体からなる協議機関を設置し協議調整を行うとともに、関係機関等の協力を得ながら、道が策定することを基本とする。
4 調査研究の推進
 湿原の保全を効果的に進めるために、国と連携を図りながら、科学的手法による実態把握や湿原の生態系の解明などを進めるとともに、モニタリング手法や湿原の維持・復元技術などについてフィールドテストによる検証を行いつつ、技術開発等を進める。
5 普及啓発と国際協力の推進
(1)普及啓発の推進
 道民一人一人が湿原に対する理解を深めるために、湿原保全に関する普及資料の作成やフォーラムの開催などの普及啓発を推進するとともに、住民の自発的な湿原の保全活動を支援する。
 また、湿原を利用した自然教育の実効を期するために、解説等を行う指導者の養成を進めるとともに、道民が自然に親しみ、湿原を理解できるような観察会等を開催する。
(2)国際協力の推進
 水鳥の生息地として国際的に重要な湿原について、その保全を図るためラムサール条約への登録を促進する。
 また、国と連携を図りながら、国際間の情報交換、技術交流、共同調査などの取組みを推進する。
6 施策推進体制の整備
 湿原保全施策を円滑かつ効果的に推進していくために、庁内関係部局間の連絡調整を密にするとともに、調査研究の総合的、体系的な推進に努める。
 また、国や地方公共団体とは、情報の交換や技術の交流を推進するなどして連携を強める。
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参考資料

1 主要な湿原の分布


2 湿原リスト

 ここに掲載した湿原は、「北海道自然環境保全指針」の保全を図るべき自然地域にある良好な自然景観や水鳥類の飛来地、タンチョウなど貴重な動植物の生息・生育地などの特性を有する湿原について、マスタープランに記述した湿原の定義によりリストアップしたものである。
湿原の抽出単位の考え方
 湿原の抽出に当たっては、原則として地理的に一体とみなせる湿原を1件として扱った。
 また、地形、水文条件等の成因が共通で同じタイプの複数の湿原が、次のような範囲に存在する場合は、1件として扱った。
  1. 山上の平坦地に同じタイプの湿原が存在する場合
  2. 一つの湖沼の岸沿いに同じタイプの湿原が存在する場合
  3. 一つの河川沿いに同じタイプの湿原が存在する場合
湿原群の考え方
 複数の湿原について一体的に保全対策を講じなければ十分な効果が期待できない次の場合には、複数の湿原を一つの湿原群にまとめた。 
  1. 水系を通じて相互に影響を及ばすことが考えられ保全対策を進めるに当たって一体としてとらえることが適当な複数の湿原
  2. 同一の山系においては自然条件が類似し、また利用上の影響を全体として把握することが必要であるので、保全対策を進めるに当たって一体としてとらえることが適当な複数の湿原
  3. 水鳥の生息地として一体的な保護管理が必要で、保全対策を進めるに当たって一体としてとらえることが適当な複数の湿原
湿原の名称について
  1. 湿原名として一般的に使用されている通称を付した。
  2. 通称が「○○湿原」となっていないものには、末尾に「湿原」を付けて「○○湿原」とした。(大谷地→大谷地湿原、沼の原→沼の原湿原など)
  3. 通称がない場合には、湿原所在地の地名(河川名、湖沼名、山岳名など)の末尾に「湿原」を付けた。(風蓮川湿原、サロマ湖湿原、ニセコアンヌプリ湿原など)
  4. 同一名称の複数の湿原がある場合には、頭に所在市町村名を付した。(豊頃長節沼湿原と根室長節沼湿原など)
湿原群の名称について
  1. 複数の湿原をまとめて湿原群とした場合は、湿原群所在地の地域名(山系名、河川名など)又はまとめた湿原の名称を列記した末尾に「湿原群」を付けて、「○○湿原群」とした。(ニセコ山系湿原群、コムケ・シブノツナイ湿原群など)
  2. 単独の湿原で湿原群の扱いをしている場合は、湿原名をそのまま使用した。(マクンベツ湿原など)
本リストでは湿原の現況把握に基づき、個々の湿原の属性の主なものについて記載した。
面積(ha) :湿原の面積を、1ha〜10ha、11ha〜100ha、101ha〜1,000ha、1,001ha以上の4つの面積規模に分類して記載
地域指定等 :湿原と密接なかかわりのある次の法令等による地域指定等の有無について記載(一部が指定されている場合を含む)
自然公園
  • 自然公園法に基づく国立公園、国定公園
  • 北海道立自然公園条例に基づく道立自然公園
保全地域等
  • 自然環境保全法に基づく自然環境保全地域
  • 北海道自然環境等保全条例に基づく道自然環境保全域及び環境緑地保護地区、自然景観保護地区、学術自然保護地区
鳥獣保護区
  • 鳥獣保護及狩猟二関スル法律に基づく鳥獣保護区
天然記念物
  • 文化財保護法に基づく特別天然記念物、天然記念物
  • 北海道文化財保護条例に基づく天然記念物
ラムサール登録湿地
  • ラムサール条約第2条に基づく登録湿地
  • 現在北海道内には「釧路湿原」(達古武沼湿原、シラルトロ湖湿原、塘路湖湿原を含む)、「クッチャロ湖」、「ウトナイ湖」、「霧多布湿原」(火散布沼湿原、藻散布沼湿原を含む)、「厚岸湖・別寒辺牛湿原」の5か所の登録湿地がある。
湿原タイプ :湿原のタイプ別に高層湿原、中間湿原、低層湿原、塩湿地(以上用語解説参照)に区分して記載
利用状況 :湿原の利用状況のうち上記の法令の目的とするもののほか主なものについて記載
農業用水
  • 湿原が農業用水源として利用されている場合
漁業生産の場
  • 湿原や湿原内の湖沼、河川が漁場又は漁業資源かん養の場として利用されている場合
教育のレク
  • 湿原が自然観察などの教育活動の場や、レクリエーションの場として利用されている場合

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湿原リスト

凡例 地域指定等 自然公園 保全地域等 鳥獣保護区 天然記念物 ラムサール登録湿地
湿原タイプ 高層湿原 中間湿原 低層湿原 塩湿地     
利用状況 農業用水 漁業生産の場 教育レク          

湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
無意根山・喜茂別岳山系湿原群 1 大蛇ケ原湿原 石狩 札幌市      
2 中山湿原 石狩 札幌市        
オコタンペ湿原 3 オコタンペ湿原 石狩 千歳市       自鳥  
マクンベツ湿原 4 マクンベツ湿原 石狩 石狩町        
横津岳山系湿原群 5 横津岳湿原 渡島 七飯町       保鳥  
6 袴腰岳湿原 渡島 函館市          
大沼湿原 7 大沼湿原 渡島 七飯町       自鳥 農漁教
北檜山浮島湿原 8 北檜山浮島湿原 檜山 北檜山町       保鳥 農教
ニセコ山系湿原群 9 目国内岳湿原 後志 蘭越町        
10 パンケメクンナイ湿原 後志 蘭越町        
11 神仙沼湿原 後志 共和町       自鳥
12 大谷地湿原 後志 共和町       自鳥
13 湯本湿原 後志 蘭越町        
14 ニセコアンヌプリ湿原 後志 ニセコ町        
15 鏡沼湿原 後志 倶知安町        
夕張岳湿原 16 夕張岳湿原 空知 夕張市      
芦別岳湿原 17 芦別岳湿原 空知 芦別市        
石狩川沿湿原群 18 月ケ湖湿原 空知 月形町      

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
石狩川沿湿原群 19 宮島沼湿原 空知 美唄市         農教
20 美唄湿原 空知 美唄市        
21 石狩川沿河跡湖沼群湿原 空知 北村、美唄市、浦臼町、滝川市        
暑寒別山系湿原群 22 徳富湿原 空知 新十津川町        
23 雨竜沼湿原 空知 雨竜町       自鳥天
24 恵岱岳湿原 空知 雨竜町        
朱鞠内湿原 25 朱鞠内湿原 空知 幌加内町          
上川浮島湿原 26 上川浮島湿原 上川 上川町      
大雪山系湿原群 27 雲井ケ原湿原 上川 上川町      
28 沼の平湿原 上川 上川町、東川町       白鳥天
29 天人ケ原湿原 上川 東川町       自鳥
30 天人峡瓢箪沼湿原 上川 東川町      
31 銀杏ケ原湿原 上川 美瑛町        
32 沼の原湿原 上川 上川町       自鳥天
33 トムラウシ南麓湿原 十勝 新得町        
松山・ピヤシリ湿原群 34 松山湿原 上川 美深町       保鳥
35 ピヤシリ湿原 網走 雄武町       保鳥
金浦湿原 36 金浦湿原 留萌 遠別町          
天塩川下流湿原 37 天塩川下流湿原 留萌 天塩町          

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
 サロベツ湿原群  38 兜沼湿原 宗谷 豊富町         農教
39 サロべツ湿原 宗谷留萌 豊富町、幌延町       自鳥 中低 農漁教
40 長沼湖沼群湿原 宗谷 豊富町       自鳥
利尻島湿原群 41 沼浦湿原 宗谷 利尻富士町       自鳥
42 南浜湿原 宗谷 利尻富士町      
久種湖湿原 43 久種湖湿原 宗谷 礼文町      
声問・メグマ湿原群 44 声問大沼湿原 宗谷 稚内市       保鳥
45 メグマ沼湿原 宗谷 稚内市       保鳥
猿払湿原群 46 猿骨沼湿原 宗谷 猿払村        
47 キモマ沼湿原 宗谷 猿払村      
48 ポロ沼湿原 宗谷 猿払村       漁教
49 カリベツ川湿原 宗谷 猿払村          
50 カムイト沼湿原 宗谷 猿払村      
51 猿払川湿原 宗谷 猿払村       高中 農教
52 瓢箪沼湿原 宗谷 猿払村      
53 モケウニ沼湿原 宗谷 猿払村      
54 モケウニ沼東湿原 宗谷 猿払村          
クッチャロ湖湿原群 55 クッチャロ湖湿原 宗谷 浜頓別町       自鳥ラ 漁教
56 浜頓別ポン沼湿原 宗谷 浜頓別町       自鳥  
北見幌別川下流湿原 57 北見幌別川下流湿原 宗谷 技幸町          

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
御西沼湿原 58 御西沼湿原 網走 雄武町         漁教
オムシャリ沼湿原 59 オムシャリ沼湿原 網走 興部町        
コムケ・シブノツナイ湿原群 60 シブノツナイ湖湿原 網走 湧別町      
61 コムケ湖湿原 網走 紋別市       保鳥 漁教
62 ヤソシ沼湿原 網走 紋別市       保鳥   
サロマ湖湿原群 63 サロマ湖湿原 網走 佐呂間町、常呂町、湧別町       自鳥天 漁教
64 湧別ポン沼湿原 網走 湧別町          
能取湖湿原 65 能取湖湿原 網走 網走市       自鳥 漁教
網走湖湿原 66 網走湖湿原 網走 網走市、女満別町       自鳥天
藻琴湖・涛沸湖湿原群 67 藻琴湖湿原 網走 網走市      
68 涛沸湖湿原 網走 網走市、小清水町       自鳥  
小清水・斜里海岸湿原群 69 ニクル沼湿原 網走 小清水町        
70 涛釣沼湿原 網走 斜里町      
71 以久科海岸湿原 網走 斜里町       保鳥
ウトナイ湖湿原群 72 ウトナイ湖湿原 胆振 苫小牧市       鳥ラ
ウトナイ湖湿原群 73 美々川湿原 石狩胆振 千歳市、苫小牧市           
74 勇払川湿原 胆振 苫小牧市        
ホロホロ湿原 75 ホロホロ湿原 胆振 白老町          
ポロト・ヨコスト湿原群 76 ポロト湖湿原 胆振 白老町      
77 ヨコスト湿原 胆振 白老町          

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
朝日沼・松の沼湿原 78 朝日沼・松の沼湿原 胆振 厚真町      
百人浜湿原 79 百人浜湿原 日高 えりも町        
東雲湖湿原 80 東雲湖湿原 十勝 上士幌町       自鳥
十勝岳山系湿原群 81 下ホロカメットク山湿原 十勝 新得町        
82 原始ケ原湿原 上川 富良野市       自鳥
更別湿原 83 更別湿原 十勝 更別村        
十勝海岸湿原群 84 当縁湿原 十勝 大樹町          
85 ホロカヤントウ湿原 十勝 大樹町       漁教
86 生花苗沼湿原 十勝 大樹町         漁教
87 キモントウ湿原 十勝 大樹町       高中 漁教
88 湧洞沼湿原 十勝 豊頃町、大樹町       漁教
89 豊頃長節沼湿原 十勝 豊頃町         漁教
90 十勝川河口湿原 十勝 豊頃町、浦幌町      
雌阿寒温泉湿原 91 雌阿寒温泉湿原 十勝 足寄町      
白糠・音別海岸湿原群 92 コイトイ沼湿原 釧路 白糠町      
93 馬主来沼湿原 釧路 白糠町、音別町      
94 直別湿原 釧路 音別町          
ヒョウタン沼湿原 95 ヒョウタン沼湿原 釧路 阿寒町       自鳥  
湯川湿原 96 湯川湿原 釧路 弟子屈町        
釧路湿原群 97 釧路湿原 釧路 釧路市、釧路町、鶴居村、標茶町       自鳥天ラ 高中 漁教

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
 釧路湿原群 98 達古武沼湿原 釧路 釧路町       自鳥
99 塘路湖湿原 釧路 標茶町       自鳥ラ 漁教
100 シラルトロ湖湿原 釧路 標茶町       自鳥ラ 漁教
厚岸湖・別寒辺牛湿群 101 厚岸湖湿原 釧路 厚岸町       自鳥天ラ 漁教
102 別寒辺牛湿原 釧路 厚岸町、標茶町       鳥ラ
霧多布・散布湿原群 103 霧多布湿原 釧路 浜中町       自鳥天ラ
104 火散布沼湿原 釧路 浜中町       自鳥ラ
105 藻散布沼湿原 釧路 浜中町       自鳥ラ
幌戸・恵茶人湿原群 106 幌戸湿原 釧路 浜中町        
107 恵茶人沼湿原 釧路 浜中町          
ホロニタイ・フレシマ湿原 108 ホロニタイ・フレシマ湿原 根室 根室市        
落石岬湿原 109 落石岬湿原 根室 根室市       保天
ユルリ島湿原 110 ユルリ島湿原 根室 根室市       保鳥天  
温根沼・長節沼湿原群 111 温根沼湿原 根室 根室市       塩 
112 根室長節沼湿原 根室 根室市       自鳥
根室半島湿原群 113 タンネ沼・オンネ沼湿原 根室 根室市      
114 牧之内湿原 根室 根室市         中低  
115 ノッカマップ湿原 根室 根室市        
116 トーサムポロ湿原 根室 根室市        
117 ヒキウス湿原 根室 根室市          
風蓮湖湿原群 118 春国岱湿原 根室 根室市       自鳥 高低

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湿原群名 番号 湿原名 所在地 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ
太字は主要なタイプ)
利用状況
支庁 市町村 〜十 〜百 〜千 以上
風蓮湖湿原群 119 第1トウバイ川湿原 根室 根室市       自鳥  
120 第2トウバイ川湿原 根室 根室市       自鳥
121 別当賀川湿原 根室 根室市       自鳥 漁教
122 厚床川湿原 根室 根室市       自鳥
123 槍昔湿原 根室 根室市        
124 風蓮川湿原 根室 根室市、別海町       漁教
125 ヤウシュベツ川湿原 根室 別海町       漁教
126 走古丹湿原 根室 別海町       自鳥
兼金・茨散湿原群 127 兼金沼湿原 根室 別海町         農漁教
128 茨散沼湿原 根室 別海町      
西別湿原 129 西別湿原 根室 別海町        
野付湿原群 130 床丹川湿原 根室 別海町        
131 春別川湿原 根室 別海町       漁教
132 野付半島湿原 根室 別海町      
133 当幌川湿原 根室 中標津町、標津町、別海町       漁教
中標津緑ヶ丘湿原 134 中標津緑ヶ丘湿原 根室 中標津町      
標津湿原 135 標津湿原 根室 漂津町       漁教
羅臼湖湿原 136 羅臼湖湿原 根室 羅臼町       自鳥

集計 面積(ha) 地域指定等 湿原タイプ 利用状況
〜10 27 65 34 11
〜100 50 16 7 30
〜1,000 53 62 91 84
1,001〜 6 13 4    
合計 136 10        

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3 用語解説
湿原
 湿原は、泥炭地(後述)上に発達した植生、または河川・湖沼・海岸などで土砂などが堆積し、過湿な条件が保たれているところに発達した植生を有する地域をいう。湿原は、一般に草原的な景観を持つものをいうが、湿地は、湖沼・河川・海岸などの水面を含むさらに広い概念を指し、ラムサール条約における湿地の定義では、天然のものであるか人工のものであるかを問わず、水田、溜め池、干潟、深さ6メートル以内の浅海、藻場、サンゴ礁、河川、湖沼、沼沢地、ツンドラ、湿地林(マングローブほか)、湿原などを含んでいる。地下水位や栄養物質の含有量等の条件に応じて、植物群落の種類構成が異なり、これによって、高層湿原、低層湿原、中間湿原、塩湿地などのタイプに分けることができる。
 泥炭地、湿原、湿地を模式的に示すと次のようになる。 
 [泥炭地用語事典(北海道泥炭地研究会編),1992,エコネットワーク]

生態系

 ある地域にすむ生物は、他の生物やその生活に関与する非生物(気象、土など)と複雑に絡み合っているので、別々の切り離された存在とは考えずに、お互いに働きかけ、影響を与えあうシステムとして捉えたもの。
 例えば、植物が太陽の光、土の栄養、酸素から有機物を作り、動物がそれを食べ、細菌などが動植物の遺体を分解して土に返し、それが再び植物の養分となるといった循環の中で、物質(水、炭素、窒素など)やエネルギーの流れに注目する。
 [環境科学辞典,1985,東京化学同人]

北海道自然環境保全指針

 本道の良好な自然環境を将来にわたって適切に保全していくため、本道における自然の現況を把握しこれを評価して、自然環境の保護と利用に関する取組みを長期的に進めていくための目標と方向を示すことを目的として、平成元年7月に道が策定したものである。

生物の多様性と生物多様性条約
 生物の多様性は、生物個体の大きさや形態、構造や発生、生理機能、生態などいろいろなレベルで論ずることができるが、一般的には種レベルで論ずることが多い。
 また、生物群集はいろいろな種から構成されており、構成種数が多いほど、さらにそれぞれの種の個体数の差が小さいほど、組成は複雑となる。
 このように、群集組成の複雑さは種の豊富さと個体数の種間配分状態(これを均等性、または均整性という)の二つの要素によって決まる。
 一般的にはこの両者をあわせて種の多様性とよんでいるが、二要素は相互に関連があって画然と区別し難いので、種の多様性を種の豊富さと同義とする考え方も根強い。
 [環境科学辞典]
 生物多様性条約は、1992年6月にリオデジャネイロ(ブラジル)で開催された国連開発環境会議(地球サミット)において採択されたもので、地球環境の悪化や生物種の衰退のなかで、人間の生命維持にとって重要な生物の多様性の保全を目的としている。
 条約では、各国が生態系、生物種、遺伝子のそれぞれのレベルにおいて、生物の多様性を保全し、その持続的な利用を図りながら遺伝資源の利用から生ずる利益を公平に配分するために、可能な限りの措置をとることを求めている。
 地球サミットにおいて、157ケ国が署名し採択された後、1993年12月に発効した。(条約では30番目の批准書、承認書の寄託後90日目の日に効力が発生することが定められている)
 1993年12月末現在、日本、米国はじめ41ケ国が批准している。
 [地球環境条約集(地球環境法研究会編),1993,中央法規出版] 

泥炭地
 泥炭とは、低温・過湿などの条件のため、植物の残遺体が十分に分解されずに、湖沼の底部や湿地に堆積し半ば炭化したもので、日本では有機質を50%以上含んだものをいう。
 泥炭地は、泥炭が堆積・形成している土地で、日本では泥炭が排水後も地表面に20cm以上あるところを泥炭地としている。
 [泥炭地用語事典、生態学辞典(沼田真編),1974,築地書館]

溶岩台地

 一枚又は他数の低粘性の溶岩によって形成されている台地で、比較的平坦であることや岩盤の不透水性などから、湿原が形成されやすい地形である。
 [地理学辞典(日本地誌研究所編),1977,二宮書店]

高層湿原(ミズゴケ湿原)
 地下水位より高い位置で泥炭が形成されているところ(高位泥炭地)に成立している湿原で、降水(雨水・霧)から水分と養分を得ているので栄養に乏しい。植生は、ミズゴケを中心にツルコケモモ、モウセンゴケ等小型の植物が主体となっており、代表的な例として、北海道では雨竜沼など山岳地域に見られる湿原やサロベツ湿原などがある。

付記
 高層湿原はヨーロッパ中北部の湿原における形成過程から定義され、命名された。
 その植生のベースとなるのはミズゴケ類の中でもっとも貧栄養的環境に生育する種類であり、これに随伴して生じる植物もそうした環境に適合できる種類に限られる。
 ところが、日本の低地、ことに河口部などに発達する湿原では、しばしば氾濫にともなう無機質土壌の供給や、特徴的な火山灰質土壌の混入などがあり、ヨーロッパの高層湿原に比べてはるかに富栄養的な環境条件を持つ。
 そこで、単に貧栄養的環境にのみ適合する植物に限らず、時にはヨシなどを含む富栄養的な環境に生育する種類さえも同時に群落の構成要素に含まれることがあり、ヨーロッパの学者の中にはこれは高層湿原ではないとする意見もある。
 ただし、日本にはそうした厳密な意味での高層湿原が存在しないということではない。
 山地に形成された湿原では、河川によるミネラルの供給はないから、ヨーロッパ型の高層湿原に近いものが見られるし、低地でも例えば落石岬湿原など海岸段丘上に成立したものなどもこのタイプに属する。
 [泥炭地用語事典ほか]

中間湿原(ヌマガヤ湿原)

 低層湿原から高層湿原に移行する途中の湿原で、植生はヌマガヤ、ワタスゲ、エゾカンゾウ、ヒオウギアヤメなどが主体となっている。
 [泥炭地用語事典ほか]

低層湿原(ヨシ湿原)

 湖沼や河川流域などの水面またはそれ以下で泥炭が形成されているところ(低位泥炭地)に成立している湿原で、降水の他に周囲から流入する栄養塩物質を含んだ水によってかん養され、栄養に富んでいる。
 植生は、ヨシを中心に大型のスゲ類が主体となっており、しばしばハソノキなどの疎林を伴う。代表的な例として、北海道では湖沼の周辺に見られる湿原や、釧路湿原、別寒辺牛湿原などがある。
 [泥炭地用語事典ほか]

塩湿地

 沿岸率や汽水湖(淡水と海水が混じった湖)の緑などに見られる湿原で、植生はアッケシソウ、ウミミドリ、シバナなど塩分に適応した独特の植物が生育している。
 代表的な例として、北海道では厚岸湖湿原、サロマ湖湿原などがある。
 [泥炭地用語事典ほか]

遺存種

 かつては広く分布していた生物が、過去の気候の変動や新興種の台頭などによって分布域を狭められながら、現在では限られた場所で生息・生育している生物種(残存種)。
 一般には新興種に抑圧され、もとの分布域の周辺部や島、山岳部など隔離された地域で局地的に生息・生育しているものが多い。
 北海道の湿原内に生息するキタサンショウウオ、コモチカナヘビは氷河期からの遺存種として代表的なものである。
 [環境科学辞典ほか]

法令

 一般的には、法律及び法律に基づく命令(政令、省令等)を指すが、本マスタープランにおいては、これらに加え、「国有林野経営規程」や「環境影響評価実施要綱」などの訓令、要綱を含む広い概念として用いている。 

希少野生動植物種
 希少野生動植物種は、わが国に生息・生育する絶滅のおそれのある「国内希少野生動植物種」と、国際的に協力して種の保存を図ることとされている「国際希少野生動植物種」に区分され、さらに、国内希少野生動植物種の一部は「特定国内希少野生動植物種」に区分される。
 また、新たに発見されるなど緊急に保護を要する種については、「緊急指定種」として指定される。
 国内希少野生動植物種としては現在44種が指定されているが、北海道ではタンチョウ、シマフクロウなど約15種の生息が確認されている。(平成6年3月現在)
 
環境への負荷
 汚染物質の排出や動植物等の自然物の損傷、土地の形質の変更などの人の活動により、環境に加えられる影響で、環境の保全上支障の原因となるおそれのあるもの。
 環境の保全上支障とは、次のことをいう。
  1. 人の活動に伴って大気、水、土壌その他の環境の自然的構成要素が劣化する事によって、公害その他の人の健康又は生活環境に係る被害が生ずること。
  2.  開発行為等によって自然環境が劣化すること又は一定の緑地の確保が必要な場合等において、必要な自然環境の整備がなされないことにより、広く公共のために確保されることが不可欠な自然の恵沢が確保されないこと。
 [環境基本法の解説(環境庁企画調整局企画調整課編著),1994,ぎょうせい]

ラムサール条約
 正式には「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」といい、1975年に発効した。イランのラムサールという都市で開催された会議で採択されたことからこう呼ばれている。
 条約では、特に水鳥に注目し、その生息地として国際的に重要な湿地とそこに生息・生育する動植物の保全を進めることと、湿地の適正な利用を図ることを目的としており、各締約国がその領域内にある国際的に重要な湿地を指定し保護するとともに、保全促進のために各締約国がとるべき措置、締約国会議などについて定めている。
 締約国は、加入に際して1箇所以上の湿地を登録する義務がある。日本は1980年に加入して以後、これまで9箇所の湿地を登録しており、そのうち本道には釧路湿原、クッチャロ湖、ウトナイ湖、霧多布湿原、厚岸湖・別寒辺牛湿原の5箇所の登録湿地がある。
1993年7月現在の締約国は77箇国となっている。
 また、締約国会議は3年に1回開催され、第5回締約国会議は1993年6月に釧路市で開催されている。
 [地球環境キーワード事典(環境庁編集),1990,中央法規出版]

ワイズユース

 水鳥類の保護と湿地の保全を目的としたラムサール条約では、湿地(湿原)を厳格に保護し、一切の利用を認めないというものでなく、「賢明な利用」という基本的な考え方を持っている。
 「賢明な利用」とは、持続可能な利用のことで、湿原の持つ機能を維持しつつ将来にわたってその恩恵を享受していくことである。
 例えば、湿原に生息する動植物や魚介類を持続的に採取するなどして、地域に生活の糧を与えつづけることや、適正に管理された観光的利用・教育的利用などがそれに当たる。言い換えれば、人間とのかかわりを続けながら湿原を次代に受け継ぐことがワイズユースである。


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